2020 Fiscal Year Research-status Report
議会制の批判から擁護へ:モスカの現代的混合政体論の再検討
Project/Area Number |
20K13411
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
千野 貴裕 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 准教授 (00732637)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | モスカ / イタリア政治思想史 / 混合政体論 / 議会制民主主義 / 自由主義 / 政治学 / 政治思想史 |
Outline of Annual Research Achievements |
現代において、議会制民主主義に対する批判は世界的に高まっている。しかし、議会制に対する批判は今に始まったことではない。本研究は、20世紀前半のイタリアの思想家ガエターノ・モスカが、一時は同時代の議会批判と歩調を合わせつつも、ファシズム台頭の時代に議会制を擁護するようになった理由を検討することを目的としている。本研究は、モスカの態度変容の理由が、当時の政治状況だけではなく、混合政体論の現代的事象としての議会という理論的進展にあるのでは、という仮説を立てている。 初年度(2020年度)は、モスカ研究がイタリア・英語圏・日本のいずれでも低調であることを踏まえて、まずは上記の仮説を検討するために必要な文献や資料の調査を行った。結果、国内には必要とする資料がほとんどないことがわかった。COVID-19の感染拡大によって、海外での調査は不可能であったので、文献を取り寄せることを中心に、詳細な検討を行うこととなった。 結果、1920年代にイタリアで「科学的」政治学として隆盛したエリート主義理論が、戦後アメリカにわたり、いわゆる行動主義とエリート民主主義理論を用意したことがほぼ明らかとなった。本研究が、1920年代のイタリアにとどまらず、今なお大きな影響力をもっているアメリカ政治学の趨勢と関連していることがわかったことは、本研究の射程のさらなる広がりを明らかにした。 古代から続く混合政体論については、イタリアにおける受容が、例えば英語圏(や日本)における理解とは異なることもほぼ明らかになった。モスカが1920年代になって古代からの混合政体論に訴えたことは、イタリアにおいて混合政体論の受容が一定程度続いていたからと言えそうである。 また、本研究を通じてグラムシに対するモスカのエリート主義の影響を明らかにすることができ、これを『思想』発表の論文に反映させることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ライフタイムイベントと、COVID-19の感染拡大によって、予定していたイタリアでの文献・資料調査は行えなかったため、その点では当初計画からの変更を余儀なくされた。だが、モスカに関する文献の調査と内容の精査は、(取り寄せ可能な文献については)概ね取り寄せることによって遂行することができた。上述したとおり、モスカの政治思想とアメリカ政治学との関連、またイタリアにおける混合政体論の系譜については、論文にするためには更なる検討が必要ではあるものの、いくつもの新しい知見が得られた。
|
Strategy for Future Research Activity |
第二年度(2021年度)も、COVID-19の感染拡大は続く様相であり、海外での研究や文献・資料の調査は難しいものと思われる。海外の図書館等の資料については、当初の予定よりも幅を広げて、取り寄せによる入手可能性を模索する必要があると言える。また、モスカの文献や、モスカに関する文献には、今まであまり知られていないものがあることが明らかになったため、こうした資料の入手、整理、精査に引き続き取り組みたい。 また、海外での学会報告にも制約がある(*学会開催は大方がオンラインでの開催に切り替えられているが、中止や延期されたものもあり、また先行きが不透明である)ため、学会報告を行うのではなく、直接論文を執筆し、それを主要雑誌に投稿する方向に切り替えて考えたい。上述した初年度の研究から、論文2本のアイディアがあるため、これらの論文の執筆を進めていく。
|
Research Products
(1 results)