2021 Fiscal Year Research-status Report
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20K13448
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
浅野 康司 東北大学, 経済学研究科, 講師 (30868047)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 金融仲介機関 / 金融危機 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、これまでに取り組んだ研究成果をもとに、コーポレート・ガバナンスと金融システムの不安定性に関する2点の研究に注力した。
1点目の論文”Corporate Governance and Fire sales”では、これまでに構築したモデルをもとに、資産価格と金融仲介機関のガバナンスとの関係性についてさらなる分析を行った。金融仲介機関に規律を与えるためには、事業の成果が悪かった際には資産を売却することが有効であるが、低金利下ではこのようなコミットメントが困難となり、経営規律が緩むことになるため、資産価格が暴落する危険性が生じることとなる。この結果は、低金利によって、ガバナンスは悪化し、金融危機の発生につながる可能性があることを示唆している。
2点目の論文” Reputation and the Wall Street Walk”では、経営者の評判構築行動と大株主の役割について注目している。経営者に市場からの評判を高めるために業績の改善に向けて努力する誘引があるとき、大株主の退出が経営者の努力に与える影響を分析している。もし企業の業績が経営者の能力よりも努力に左右されるのであれば、大株主は経営者の努力不足を観察したときに保有株式を売却する。このとき、経営者は株価の下落を恐れ、一層努力をすることになるため、大株主は経営者の規律付けに貢献することができる。一方で、企業の業績が経営者の能力に大きく左右されるのであれば、大株主は経営者の能力不足を察知したときに保有株式を売却する。このとき、経営者は努力をしたとしても市場からの評判を失ってしまう可能性があるため、努力する誘引が失われてしまう。この結果は、大株主の存在は経営規律を悪化させる可能性があることを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度に引き続いて、今後の研究の基礎となるモデルの分析を行い、その上でさらなるモデルの拡張を行った。コーポレート・ガバナンスや金融システムの不安定性については、理論・実証ともに近年大きく発展している研究分野であるため、精力的に最先端の研究論文を読み込んだ。その結果、金融仲介機関のガバナンスにまつわる問題をマクロモデルに取り込み、より精緻な分析の実行が可能となったため、この点は大きな成果である。また、実証分析・数値計算についての専門書を購入し、理論結果とデータとを結びつけるための準備を行った。まとまった研究成果は、研究会での報告を行い、多くの改善点に気づくことができたため、一層洗練された分析を行うことができた。完成した論文については、英文校正を用いて文章を格調高くなるように修正した上で、海外の学術雑誌に投稿することができ、重要な目標を達成できたと言える。
一方で、新型コロナウイルスによる影響が想定よりも長期化しており、学会への参加や研究打ち合わせが少なかったことが懸念点として挙げられる。対面でのコミュニケーションは研究成果をより優れたものとするために必要であるため、一部の研究が若干滞ることとなった。
このような理由により、おおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究推進方針としては、次の2点が挙げられる。
1点目は、資産価格や国際金融について学習することである。金融仲介機関は金融市場において大きな役割を担っており、金融仲介機関の行動はリスクプレミアムに影響を与えている。そのため、金融市場と金融仲介機関の関係性を明らかにすることは、金融システムの安定性を考える上で重要となる。また、近年の低金利環境では、金融仲介機関は高い利回りを求めて、国内だけでなく海外の金融資産にも目を向けており、為替や国際資本移動を理解する上でも、金融仲介機関の行動を考慮することが必要不可欠である。金融仲介機関の国を超えた活動が国内および世界の金融システムの安定性にどのような影響をもたらすのか、その研究意義は近年より一層高まっているといえる。このような理由により、金融仲介機関の行動と金融危機についての理解を深めるためにも、資産価格や国際金融を学ぶことが必要であると強く感じている。
2点目は、学会への参加や研究打ち合わせの回数を増やし、より多くの研究成果を出して海外の学術雑誌に投稿することである。新型コロナウイルスの影響により停滞していた研究を進めていき、成果を報告した上で、コメントを論文に反映させ、完成をいち早く目指したい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響により、予定していた学会への参加ができなくなったから。 次年度使用額は、今後の学会参加や研究打ち合わせにかかる諸費用のために使用する予定である。
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