2022 Fiscal Year Annual Research Report
財政再建の理論分析:世代間負担の公正性および経済厚生改善化の観点から
Project/Area Number |
20K13455
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Research Institution | The University of Kitakyushu |
Principal Investigator |
前林 紀孝 北九州市立大学, 経済学部, 准教授 (30735733)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 財政健全化の最適スピード / 世代間厚生の公正性 / 財政再建ルール / 増税ベースVS支出削減ベース |
Outline of Annual Research Achievements |
財政再建をどのように進めていくかについて考察した。現在の国債残高の対GDP比からターゲットまでの差をどれぐらいのスピードで減らすのが妥当か、また減らす方法として、支出削減か増税のどちらが好ましいのかを財政の持続可能性、経済厚生、各世代の厚生の公正性の観点から理論分析を行った。まず、財政の持続可能性の観点からは税ベースの調整よりも支出ベースの調整の方が好ましいことが示された。 次に経済厚生の観点からは支出調整ベースと税を調整ベースとした財政再建のどちらが好ましいかは国によって異なることが示された。日本の場合、累積国債残高がとても高く、財政再建で国債残高が劇的に減ってしまうと老年世代の資産所得がかなり減るような状況になる。したがって税ベースで調整する財政再建の下で、短期的には税率を引き上げるものの、長期的に資産課税率を下げて、資産所得の下げ幅を緩和した方がよいことが分かった。一方、アメリカのように生産性の高い経済では、民間の経済活動を歪めにくい支出ベースの財政再建が望ましいケースが確認できた。また、生産性が低く、税負担の大きいギリシャ、イタリア、ポルトガルでは、民間経済の活力をあまり期待できないので、高税率を維持し、大きな政府を維持しつつ、支出ベースで財政再建を進めるべきであることが示された。 さらにこれら(支出調整ベースか税調整ベースか)の違いは、政策当局者が経済厚生を基準にするかそれとも世代間の公正性をより重要視するかの違いにも依存することが分かった。日本(ギリシャ、イタリア、ポルトガル)の場合は、支出ベース(税調整ベース)が世代間の公正性の観点から望ましく、経済厚生の観点からの結果と異なることがわかった。 しかしこれらの分析で共通して言えたことは、財政再建はできるだけ早いペースで行うべきであるということである。
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