2021 Fiscal Year Research-status Report
企業による品質決定を考慮した場合のパススルーおよび帰着についての実証分析
Project/Area Number |
20K13472
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Research Institution | Otaru University of Commerce |
Principal Investigator |
土居 直史 小樽商科大学, 商学部, 准教授 (30633945)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | パススルー / 帰着 / 離散選択モデル / 品質 / 航空産業 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度には、1)需要モデル推定方法の確立と、2)実証分析の基礎となる理論的枠組みの検討をおこなった。
まず、2020年度から引き続き、需要モデルの新たな推定方法の確立に取り組んだ。今回の研究で利用するデータセットでの需要推定方法を検討するなかで、既存の方法よりも簡単に、かつ短い計算時間で推定できる方法があることに気が付いた。より具体的には、幅広い産業の需要推定において標準的に用いられているランダム係数ロジットモデルについて、いくつかの条件(追加的なデータが利用できるなど)を満たす状況であれば使うことのできる方法である。追加的に必要とされるデータは公的な統計調査やPOSデータなどから得られる可能性も十分ある形式のものであり、幅広い産業の需要推定において利用できる方法である。その成果をまとめた論文は、日本経済学会などで発表し、産業組織論の有力査読誌のひとつであるInternational Journal of Industrial Organizationに掲載された。
その後、実証分析に用いる変数選択や推定結果の解釈において必要となる理論的枠組みの検討をおこなった。税や費用の価格へのパススルーや帰着に関する既存研究(そこでは基本的には製品品質は外生で、企業は価格だけを決める設定)を確認するなかで、それを拡張することで、企業による品質決定も考慮した場合の税や費用による価格および品質への影響について分析するための理論的枠組みとできそうなことに思い至った。その拡張によって、いくつかの興味深い理論的結果が得られた。たとえば、増税時には、価格だけを決める独占企業は価格を上げると予想されるが、価格と品質を同時決定している企業はむしろ価格を下げることがあるという結果が得られた。このことから、増税による価格への影響を分析するときに、品質決定も十分に考慮することの重要性が示唆される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画では、2021年度には日本の航空旅客市場の需要・供給の構造モデルの推定に取り組む予定だった。
実際におこなったことは、1)需要推定方法の確立(2020年度からの継続)と2)理論的枠組みの拡張である。まず、2020年度に旅客需要モデル推定方法を検討しているなかで、既存の手法を改善できることに思い至った。そのため、2020年度から2021年度にかけてはその確立と結果の公表を優先した。また、実証分析に用いる変数などについて検討するために既存の理論研究を確認していくなかで、理論的枠組みを拡張する方法に思い至った。そのため、予定していたデータ分析に着手するのは2022年度以降にして、2021年度にはまず理論的枠組みの拡張に取り組んだ。
新たな需要推定方法の確立や理論的枠組みの拡張は当初の計画に無かったため、研究全体の進捗状況区分としては「やや遅れている」を選んだ。しかし、いずれも最終的に本研究課題の問いに答えを出すために必要なものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、拡張した理論的枠組みから得られた結果を整理し、その成果の学会発表や論文投稿をおこなう。
そのうえで、研究実施計画に沿う形でデータ分析をおこなう。初めに比較的単純な統計モデルによって、費用(燃油価格)による価格(運賃)や品質(1日あたりのフライト数)への影響を分析する。その際には、拡張した理論的枠組みを基にしてモデルに含める説明変数の取捨選択や推定結果の解釈をおこなう。
その後、需要と供給の構造モデルの推定をおこない、それを用いて燃油価格の帰着の分析を試みる。その際には、2020-2021年度に考案した需要モデルの推定方法の活用を予定している。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の影響により、学会参加などができなくなった影響で旅費が不要になった。また、同様の理由から他の研究予算にも余裕が生まれ、アルバイトの人件費やデータの購入などはそちらから支出することもできたため、次年度使用額が生じた。その利用計画としては、次年度以降に積極的に国際学会で発表することを予定している。
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Research Products
(6 results)