2021 Fiscal Year Research-status Report
〈教育機会の平等〉の哲学的研究--概念史の再構築に向けて
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20K13841
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
児島 博紀 富山大学, 学術研究部教育学系, 講師 (50821542)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | リベラリズム / 機会の平等 / 家族の価値 / 生活水準 / ケイパビリティ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は英語圏における〈教育機会の平等〉概念の展開や変遷について、哲学的な観点から検討し明らかにしようとするものである。2021年度は、当初の研究計画とは多少異なる形で研究の遂行と発表を行うこととなった。その主な成果は以下の2点である。 一つは、次年度に予定した研究計画の内容の先取りとなるが、現代リベラリズムにおける機会の平等と家族をめぐる議論の検討を行ったことである。その内容は、第64回教育哲学会大会(9月19日)のラウンドテーブルで報告した。ここで現代リベラリズムとして取り上げたのは、H. ブリッグハウスとA. スウィフトの所論であり、とくに彼らの共著『家族の価値』(未邦訳)を検討した。彼らの議論は、リベラリズムの立場に立ちつつ、家族内の諸々の関係性がもらたす価値(家族関係財(善))を解明しようとするものである。それによって、機会の平等と家族が対立する場合に、単にそれを調停不可能な対立として済ませるのではなく、家族や教育政策に関してどのような介入が許容可能かをより踏み込んで示すことが目指されている。今回の発表では、その理論的な概要や特質を明らかにしつつ、複数の原理や価値の優先順位をめぐる問題や、彼らが暗黙の前提とする家族像をめぐる問題などを指摘した。次年度はさらに、現代の論争状況や文脈の中で彼らの議論の位置づけや意義を評価する作業に取り組みたい。 もう一つは、本研究の土台となる基礎的研究に関わる翻訳の出版を行ったことである。具体的には、A. センほか著、G. ホーソン編『生活の豊かさをどう捉えるか』の翻訳・出版に、共訳者として携わった。本書で扱われる「生活水準」概念の複雑さをめぐる問題や、この問題に対するケイパビリティのアプローチに関する討論は、本研究をさらに遂行する上でも有益な視点が多いと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2021年度は、研究実績の概要に記したような研究成果が得られたものの、当初の研究計画で予定していた英国における〈教育と不平等〉論の検討を十分に行うことができなかった。また、2020年度の研究結果の論文化の作業も遅れており、公表に至っていない。依然として、コロナ禍の影響による研究の遅れを取り戻すことができていない状況だと言える。それらを総合して、遅れていると自己評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
研究業績の概要に記した内容や、当初の研究計画をふまえて、2022年度はとりわけ以下の点を中心にして研究を遂行する予定である。 1.2020年度の研究結果の論文化作業を引き続き行い、公表の目処をつける。 2.2021年度に予定していた英国における〈教育と不平等〉論の検討を遂行する。 3.2021年度に行ったリベラリズムにおける機会の平等と家族に関する理論の検討結果をふまえ、研究計画で予定していた現代の〈教育の正義〉論争の検討を進める。 4.本研究を遂行する上で土台となる基礎的研究(申請者が携わっている倫理学・政治哲学関係の翻訳プロジェクトの刊行など)を並行して行い、その相乗効果によって本研究の活性化をはかる。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響により、学会や研究会が軒並みオンライン開催となったため、出張による旅費を使用しなかった。そのため、物品費やその他(ジャーナル論文PDFの購入代金)で使用したものの、予算を全額使用するには至らず、結果として次年度使用額が生じた。 使用計画としては、移動制限が解除されれば出張費として用いるほか、図書購入のための物品費として用いることでいっそうの研究遂行に努めるつもりである。
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