2021 Fiscal Year Research-status Report
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20K13861
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Research Institution | Senri Kinran University |
Principal Investigator |
本宮 裕示郎 千里金蘭大学, 生活科学部, 助教 (30823116)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 19世紀イギリス / 教養概念 / 科学 / 文学 / 道徳 / T. H. ハクスリー / M. アーノルド |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、まず、T.H.ハクスリーとM.アーノルドがそれぞれに提示した初等教育カリキュラム論の比較検討を通じて、両者の教養概念の異同を実践的なレベルで整理した。先行研究では、両者が提示したカリキュラムは表面的には一致していると判断されてきた。しかし、科目構成を実際に比べると、表面的にも一致していなかったことが明らかになった。しかも、ハクスリーが、子どもたちの生活のリアルを直視し、当時直面していた実際的な課題への対処も視野に入れたカリキュラムを構想していたのに対して、アーノルドは、いわばカリキュラムにロマンを抱き、実際の生活とは一線を画す、精神的な向上を一貫して求めており、両者は異なるカリキュラム観を抱いていた。両者の異同は、カリキュラム内で作用する論理にも見られた。ハクスリーは、科学教育を通じて、観察対象と実際に向き合い注意深く正確に観察することで新たな知識を獲得することや、推論を通じて知識同士を関連づけることを期待していた。人間をも注意深く正確に観察することによって、道徳的な行為が導かれるとも考えていた。対照的に、アーノルドの初等教育カリキュラム論では、科学教育と道徳性の涵養は切り離され、科学教育で獲得するものは知識にとどまるとされた。知識を使う際の道徳的な判断を可能にする役割は文学教育に与えられ、文学と向き合うことで道徳性が涵養されると考えられていた。 そのうえで、これまでの研究成果をまとめたものとして、イギリスの自由教育論争の再整理をテーマとする博士論文を執筆・提出した。博士論文を通じて、自由教育論争においては、ハクスリーとアーノルドがそれぞれに示した教養概念は対立するものではなく、自己との調和と世界との調和を特徴とするイギリスの伝統的な自由教育を相補的に象徴していたことを論証した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、T.H.ハクスリーとM.アーノルドの教養概念の異同を実践的なレベルで整理したうえで、これまでの成果を博士論文としてまとめている。新型コロナウィルスの感染拡大の影響によって、初年度に変更することとなった計画にもとづいて成果を出すことができているために、「おおむね順調に進展している」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
博士論文では、T.H.ハクスリーとM.アーノルドの論争に焦点を合わせて、19世紀イギリスの自由教育論争の整理を試みたものの、日本の教養概念とのつながりを考察することはできていない。今年度は、ハクスリーとアーノルドの教養概念が日本の教養概念に与えた影響について研究を進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
研究が進展するなかで、イギリスの教養概念が日本の教養概念に与えた影響についても考察する必要が生じ、そのための書籍購入費として翌年度に使用することとした。
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