2022 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
20K13861
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Research Institution | Senri Kinran University |
Principal Investigator |
本宮 裕示郎 千里金蘭大学, 生活科学部, 講師 (30823116)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 自由教育論争 / 19世紀イギリス / 教養概念 / 科学 / 文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度に提出した博士論文をもとに、教養概念をめぐって展開された19世紀イギリスの自由教育論争をテーマとする書籍を出版した。主には、博士論文の段階では言及が少なかった当時の社会状況について文献調査を行い、書籍の内容に反映させた。博士論文の結論に大きな変更は生じていない。 本研究で対象としたT. H. ハクスリーとM. アーノルドは、先行研究では、科学教育を推進する立場と文学教育を擁護する立場をそれぞれ代表し、自由教育論争では対立する立場に位置づけられてきた。しかし、本研究での検討によって、ハクスリーとアーノルドがともに、古代ギリシャの精神を19世紀イギリスに取り戻すことで、人文主義的な教育に矮小化されていた自由教育を人間主義的な教育へと改革していたこと、そして、その改革を実現するために、真実への追求を介して知性と道徳性をともに涵養する知の体系として教養概念をとらえていたことを明らかにした。加えて、ハクスリーが、人間関係における社会的・関係的な道徳性を求めていたのに対して、アーノルドは、自己の内面に目を向ける個人的・内省的な道徳性を求めていたという差異が、教養概念の背後にある両者の人間観の違いによって生じていたことを明らかにした。 さらには、今後の研究の準備として、博士論文で得た知見をもとに日本の教養概念の歴史を概観したところ、19世紀イギリスの自由教育論争と日本の戦後の国民的教養論が、人文主義かつエリート主義からの脱却と、人格形成の方向性(個人的か社会的か)という二点で問題意識を共有していることに気づかされたため、今後の日本の教養概念研究の分析視覚として採用する予定である。
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