2022 Fiscal Year Research-status Report
外国人若手研究者の職能開発を取り巻く環境・個人要因の解明と体系化
Project/Area Number |
20K14025
|
Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
櫻井 勇介 広島大学, 教育学習支援センター, 准教授 (60771219)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 若手研究者 / 外国人 / 大学教員 / 能力開発 / 質問紙調査 / インタビュー調査 / 混合研究法 / 国際化 |
Outline of Annual Research Achievements |
高等教育の国際化の推進が盛んに訴えられる中、日本の大学の多くが国際的な資質を有する人材を積極的に迎え入れている。その中でも、日本の機関で働きながら外国にルーツを持つ若手研究者が増加し、ますます欠かせない存在となっている。しかし、異文化環境における研究者自身の能力開発の経験やプロセスはまだあまり解明されていません。そこで、本研究では、外国人若手研究者の能力開発経験の現状と、それを促進または阻害する要因を明らかにすることを目的として進められている。これまでに、外国人若手研究者による勤務経験の語りと質問紙データを収集し、分析している。本研究の知見を踏まえ、多様な人材が活躍する日本の大学環境の構築に役立ち、さらなる大学教育と研究環境の発展に貢献することを期待している。 研究実績の要点としては以下の通りである。 1)適切な質と量のインタビューデータの収集:44名の外国籍研究者について、それぞれ1時間程度の聞き取りを最終的に実施した。逐語録を作成し、具体的な研究課題に応じたコーディング(主要な要素の抽出)を行い、量的データと組み合わせ、論文執筆、提出につなげた。新たな質的研究ソフトウェアに習熟し、高度な分析をできるようになっている。今後は、次の研究課題に応じた質的データのコーディング作業を進め、成果を出していく。 2)論文の執筆:国際学会誌から2本の論文を出版した。これ以外に、2本の論文が国際学会誌で査読中、さらに1本の論考が書籍の1章として出版予定である。これらの論文・論考は、可能なものはプレプリント(掲載承認直後の版)を公開し、広く共有している。 3)学術学会での発表:コロナウィルス感染症による渡航制限等の理由で、学会参加が困難であったため、研究成果の発表、公開を思うように進められなかった。異文化間教育学会と日本教育学会ではオンラインでのパネル発表、研修会に参加し、話題提供を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
【研究実績の概要】で記載したように、論文・論考の形での研究成果は計画を上回る実績を挙げている。具体的には「Higher Education」誌に掲載した論文では、質問紙調査の結果を踏まえ、日本の高等教育機関に所属する外国人研究者の職務経験をいくつかのパターンに分類し、それぞれののグループの特性を明らかにした。先行研究が示していた、「全体では日本での職務経験に強いストレスを感じているものの、満足している」という現象を本研究でも確認することができ、6割程度の対象者がそのグループに属していた。一方で、ほとんどストレスを感じない環境で職務に携われている者も3割弱程度、ストレス度も一定程度あり、所属意識や能力開発への意識も低い者が1割弱おり、このような多様なパターンを示せたことも本研究の新たな成果であった。さらに「Asia Pacific Journal of Education」で掲載された論文では、どのような職場条件が、外国人研究者の職務への積極的な心理的関与を説明するか検証し、その結果、同僚性の重要性を強く主張することになった。特に日本のように、英語での意思疎通ができる者が限定される学術環境において、この成果は注目に値する。日本語で意思疎通が図れる外国人教員は、同僚とのつながりを相対的に構築しやすいかもしれないが、英語による教育プログラムなどのために採用され、日本語運用力が期待されていない研究者が増えている現在において、彼らとの、または彼ら同士の同僚性を積極的に構築することが、日本の学術環境のさらなる国際化のために重要であることを本研究は示した。ただし、必ずしも日本語運用力の有無が直接その傾向を説明するとは言い切れない結果も得られており、さらなる検証が必要であるとも認識している。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、研究成果の公開、特に論文と学会発表によってその成果を共有していく。 例えば、既に2本の論文が国際誌で査読中、別の1本の論考が書籍の1章として掲載が決まっている。計画に沿って、インタビューデータと質問紙調査データを組み合わせて外国人若手研究者の職務経験の傾向を明らかにする作業も着々と進めており、成果を出せる見通しが立っている。年度前半には、アンケートデータの記述から外国人研究者の能力開発経験を支援、または阻害する要因を抽出し、論文にまとめる。さらに後半では、インタビューデータを活用し、研究者の分野間の異同性、類似性などを明らかにする成果を出していきたい。 さらに、学会発表については、既に2023年8月にギリシャで開催されるEuropean Association for Research on Learning and Instruction (EARLI)の大会でも口頭発表が審査のうえ認められており、国際的な場での情報共有を予定している。
|
Causes of Carryover |
コロナ禍の影響により、データ収集を遅らせたことで、計画全体が遅れていた。具体的には2020年度前半でのアンケートデータの収集が後半にずれ込み、同様に同年に計画していたインタビューデータの収集を2021年度に行わざるを得なかった。その後、これらのデータ収集等はすべて完了し、主要な項目に関する分析結果をまとめることができている。現在は成果の公開を順次進めている。特に次年度は、アンケートデータによる量的データとインタビューデータによる量的データを組み合わせた混合法による分析結果をまとめた学会発表、および、論文発表を進めていく。
|