2020 Fiscal Year Research-status Report
A comparative neurocognitive study in autistic patients and animal models on the mechanism of perceptual enhancement
Project/Area Number |
20K14262
|
Research Institution | Kyorin University |
Principal Investigator |
渥美 剛史 杏林大学, 医学部, 助教 (90781005)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 自閉症スペクトラム障害 / 機能亢進 / 感覚過敏 / fMRI / マウスモデル / QPS / 注意 |
Outline of Annual Research Achievements |
自閉症スペクトラム障害(ASD)では、無関係な情報にも逐一引きつけられる特異な注意機能や、些細な刺激への感覚過敏がみられる。これらは、刺激の局所情報処理が優位であるASDの知覚機能の亢進を反映するものと考えられる。報告者らは、ASDの知覚機能亢進や感覚過敏は、脳内の抑制性制御異常に起因すると考え、様々な感覚種に通底する「時間」の側面からこれを検討した。 連続して呈示される弱い左右フラッシュの同時性(SJ)や順序(TOJ)を判断する課題へ、無関係な刺激呈示が与える影響を分析した。通常、前頭葉機能がより強く関連するTOJでは、妨害刺激により直後の分解能がしばらく低下する。実験の結果、ASD者はこうした妨害からの比較的素早い復帰を示し、注意阻害による処理抑制の短縮が示唆された。またこの妨害の効果量と感覚過敏および自閉症特性の強さとの関連が認められた。SJ課題では妨害効果がみられなかったものの、ASD者では時間分解能が高いほど強い過敏性を示した。次いで、左右刺激の空間的統合によりこれらのTOJ分解能が低下する現象に着目し、ASD者において検討した。その結果、ASD者では健常者よりも低下量が小さく、トップダウンな処理抑制への頑健性を示した。さらに刺激そのものの気づきやすさ(顕著性)を変え、感覚種ごとの時間処理への影響を検討した。視・聴・触覚それぞれについて、刺激が徐々に現れる緩徐条件と、直ちに出現する急峻条件を比較した。その結果、ASD者では聴覚TOJの急峻条件で健常者より高い分解能を示したが、SJではいずれの感覚種でも群間に差がなかった。音声認識など、刺激の時間成分の処理に優れた聴覚では、ASDの注意機能による時間処理亢進が生じやすいことが考えられた。 一連の研究から、妨害の影響を受けづらく、顕著な刺激への情報処理が促進されるという、ASD者の時間処理における機能亢進が示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は、ASD者を対象に、注意機能と感覚過敏の関連を心理物理実験により分析した。特に、すでにASDでは過敏性との関連が報告されている時間認知課題を用いることで、前頭葉の関与が比較的強い時間順序判断においては、時空間的な妨害に頑健であり、顕著性の高い刺激により時間処理が亢進することを示すことができた。これら研究成果の一部は、国際自閉症学会において報告済みである。 ヒトを対象とした非侵襲的な脳機能解析実験については、報告者所属教室の専門家より経頭蓋磁気刺激法(TMS)の一つである、4連発磁気刺激法(QPS)を習得し、前頭前野を標的とした介入が視覚時間順序判断に与える影響の予備実験を行った。これまで1名を対象とした介入実験から、刺激後5分経過時点で時間分解能が低下するという結果を得た。さらに、国立障害者リハビリテーションセンター研究所と共同で、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いた視覚時間順序判断実験のセットアップを進めている。これまで報告者らは、ASD者では、情動表情画像の呈示により、直後の時間順序判断の分解能が亢進することを見出している(Chakrabarty et al., in press, European Journal of Neuroscience)。このようなASDの時間処理亢進のfMRI解析のため、すでに実験プログラムおよびMRスキャナーからの信号取得-変換装置を作成済みであり、現在は実験パラメータ決定のため、スキャン中の課題遂行による予備実験を行っている。 モデル動物を用いた実験では、6匹の野生型マウスを対象に、マウス両側ヒゲ近傍への経時的なエアパフ呈示による、時間順序判断課題の遂行を学習させた。学習用の実験装置も増設中であり、今後遺伝子改変マウスを用いた心理物理実験や、電気生理・薬理実験も効率的に遂行できるよう、体制を整えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度以降、ASD者における時間処理亢進のfMRIを進める。さらなる予備実験により心理物理およびMRスキャナーのパラメータを決定したうえで、本実験を行う。実験では、ASD者・定型発達者(健常者)それぞれ20名を目標にデータ取得を行う予定である。またQPSを用いた実験についても、さらなる予備実験を経て、磁気刺激による介入効果のピーク/持続時間を検討したうえで、本実験を行う。以前報告者らは、複数のASD者と定型発達者に共通して、右下前頭回の活動が低いほど順序判断パフォーマンスが高いという知見を得ており、この部位の神経活動上昇が、過剰な時間処理向上に関与することが考えられた。そこで磁気刺激による実験では、定型発達者15名を対象に、当該脳部位を標的に興奮性神経活動を誘導した場合の時間順序判断への影響を分析する。こうした実験により、ASD者にみられる時間処理亢進について、磁気刺激介入から再現を試みる。 非侵襲的な介入のみでは、時間処理の分子生物レベルの機序は明らかにすることができない。今後、時間認知課題を訓練したマウスをモデルに、薬理・電気生理学的手法を用い、前頭葉へ直接的な介入が時間分解能に与える影響を分析する。マウス内側前頭前皮質(mPFC)は注意機能と行動抑制に重要であるという、ヒト前頭前野と類似した機能を持つことが明らかになっている。そこで、当該マウス脳部位への皮質内微小電気刺激(ICMS)による神経活動阻害や、GABA受容体への拮抗薬投与による活動促進により、順序判断の時間分解能を比較することで、時間処理亢進への役割を検討する。また報告者の所属教室メンバーより協力を得て、自閉症関連遺伝子の一つであり、抑制性神経活動を担うGABAをはじめとしたシナプス機能を制御するシンタキシン(STX1A)の変異型マウスへTOJを訓練し、時間分解能の特性を分析する予定である。
|
Causes of Carryover |
感染症対策のため、参加を予定していた国際学会がWebオンライン開催になり、また共同研究者との打合せのための出張も困難で、旅費を使用しなかった。さらに購入予定であった実験装置を安価で自作することができたため、次年度使用額が発生した。 初年度は、学会等参加に充てる予定だった時間を有効活用するため、研究期間2年度目以降に予定していた実験の準備や予備実験を前倒して開始した。今後も出張が困難である期間が継続することが予想され、データ取得に専念することが適切である可能性が考えられる。次年度使用額は、進行中の実験遂行のため、実験補助者等の諸経費として用いる予定である。
|
Research Products
(3 results)