2022 Fiscal Year Research-status Report
Spectroscopy experiment of eta'-mesic nuclei with WASA detector at GSI-FRS
Project/Area Number |
20K14499
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
田中 良樹 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 研究員 (00868440)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 中間子原子核 / η′中間子 / 飛行時間測定 / イオン光学系 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、ドイツのGSI重イオン研究所において、η′中間子と原子核の束縛状態(中間子原子核)を探索・分光する実験を実施して、存在可能性が理論的に示唆されているη′中間子原子核を実験的に初観測することを目指している。 この実験では、標的周囲の大立体角を覆うWASA検出器と、前方0度 FRSスペクトロメータを組み合わせた同時測定を行う必要がある。本研究課題では前年度までに、そのような同時測定実験(WASA-FRS実験)を実施してきた。 3年目となる本年度(令和4年度)は、このWASA-FRS実験のデータの較正と解析を進めてきた。これまでに、WASA検出器側を構成している、円筒形ドリフトチェンバー、飛行時間およびエネルギー測定用のプラスチックシンチレータバレル、超伝導ソレノイド電磁石、電磁カロリメータのデータ較正の大部分を完了した。ソレノイド磁場中での粒子の飛跡から、その運動量を求めて、シンチレータでのエネルギー損失との相関を解析することで、WASA検出器側で最も重要である、陽子、パイ中間子の粒子識別が行えるという段階に到達した。また、FRSスペクトロメータ下流側では、飛行時間を用いた重陽子の識別と、ドリフトチェンバーによる粒子の飛跡および運動量解析を行ってきた。特に、本課題で開発・製作した、重陽子の識別のための飛行時間測定用シンチレータは、時間分解能 < 50ps という非常に良い性能を達成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和4年度(3年目)には、本研究課題でこれまでに実施したWASA-FRS実験のデータ解析を進めてきた。これまでに、WASA検出器側を構成している、円筒形ドリフトチェンバー、飛行時間およびエネルギー測定用のプラスチックシンチレータバレル、超伝導ソレノイド電磁石、電磁カロリメータのデータ較正の大部分を完了した。そして、WASA検出器側において、放出粒子の識別(陽子、パイ中間子)が行えるという段階に到達した。また、FRSスペクトロメータ下流側では、飛行時間を用いた重陽子の識別と、ドリフトチェンバーによる粒子の飛跡解析、また、スペクトロメータ焦点面での粒子の飛跡を運動量に変換するためのイオン光学系の較正の解析を行ってきた。現在、これらの解析を、実験で取得した全データセット(約40テラバイト)に対して順次適用している。このように、データの較正と解析が、行き詰ることなく順調に進んできているため、おおむね順調に進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに行ったデータ解析により、各測定器群の個別のデータ較正の大部分が完了した。令和5年度(4年目)には、WASA検出器およびFRSスペクトロメータ側の検出器を解析したデータの双方を組み合わせて、η′中間子と原子核の束縛状態についての物理解析を行うことが主なゴールである。そのために、まず、WASA検出器側の粒子識別解析を用いて、η′中間子原子核が崩壊する際に出てくると予想されている高エネルギー陽子が存在する事象を選択する。そのような事象に対して、FRSスペクロトメータ側で測定した重陽子の運動量から、力学的保存則を用いて、η′中間子原子核系の励起エネルギースペクトルを求める。スペクトルにおいて、η′中間子と原子核の束縛状態がピーク構造として発見された場合には、その束縛エネルギーを評価することにより、η′中間子の原子核中での性質を初めて導出することかができると期待される。また、逆に束縛状態がスペクトル中に観測されない場合には、その生成断面積に対する制限をかけることで、η′中間子の原子核内での性質に対する厳しい制限を課す評価を行う、ということを目指す。
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Causes of Carryover |
2022年に実施した実験の本測定のデータの解析が現在順調に進んでいる。次年度(4年目)には、これまでに行った個別の各装置群のデータ解析を統合し、物理結果の議論に至れる見通しである。そこで、次年度には、ドイツおよびポーランドにて開催される当該分野の学会および研究会への参加、論文投稿を予定しており、繰越分をこれに使用することを計画する。
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