2020 Fiscal Year Research-status Report
X線精密分光観測と微細構造の系統探査で探る銀河団プラズマの物理量
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20K14524
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
一戸 悠人 立教大学, 理学部, 助教 (30792519)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 銀河団 / X線天文学 / 銀河団プラズマ |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は主に Chandra 衛星アーカイブデータ解析による微細空間構造の探索を積極的に行なった。明るい銀河団のアーカイブを系統的に解析した結果、Abell 2319 銀河団にこれまで報告されていなかった多数の興味深い構造が見られることを発見した。中でも銀河団プラズマ境界面における流体不安定性の発現と考えられる構造を発見し、流体不安定性解析の手法と組み合わせることにより、境界面付近での銀河団プラズマの実効粘性に制限をつけることができた。このほかにも、これまであまり見られていなかった銀河団プラズマ境界面の分裂や、境界面上での不安定性による境界面自体の侵食を示唆する結果、また境界面における磁場の漏れ込みを示唆する結果などが得られた。これらの結果は論文として出版された。 また、XRISM 衛星初期観測ターゲット選定プロセスにおいては、種々の衝突銀河団における XRISM による観測可能性を検討した。検討の結果として Abell 3667 プロポーザルを提出し、priority C で採択された。 これに加え、XRISM 衛星に搭載される Resolve 検出器の開発にも参加した。Resolve での高エネルギー分解能観測実現のために必須となるノイズの性質の理解に向けて、地上試験で得られたノイズデータの解析を行なっている。カロリメータからのデータ処理における最適フィルタ処理は、速度や非理想的な状況での運用において改善の余地がある。カロリメータからの波形処理に深層学習の手法を適用する研究を開始し、この手法により最適フィルタと同等のエネルギー分解能を出すことができる可能性があることを示す暫定的な結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究において、2020-2022 年度における計画の主軸である「Chandra アーカイブデータ解析による微細空間構造の探索」に関しては、アーカイブデータの系統探査に基づく Abell 2319 銀河団中の種々の微細構造の発見、及びそれを用いた銀河団プラズマの実効粘性への制限にすでに成功していることからも、計画以上に進展しているといえる。 2022-2023 年度における目標である「Resolve による銀河団観測による ICM 物理パラメータへの制限」に向けては、種々の衝突銀河団の観測可能性の検討を行なったこと、そしてその検討に基づき Abell 3667 銀河団の XRISM 観測提案を提出し、priority C ではあるが採択されたという点があることから、おおむね順調に進展していると言える。 2020-2021 年度の目標である「Resolve 検出器性能最適化」に関しては、地上実験で得られたノイズデータの解析によりそのノイズのピクセル間相関や統計的な性質における理解が深まったことから、おおむね順調に進展していると言える。 2021-2022 年度目標の「高エネルギー分解能データ解析手法開発」に向けては、深層学習の手法を適用することでも、従来の最適フィルタ処理と同等の高エネルギー分解能分光ができる可能性を示す暫定的な結果が一足早く得られたことから、計画以上に進展しているといえる。 このほかにも、Resolve カロリメータと類似の検出器を用いた実験結果の論文が受理され、プレスリリースを行うことができたことも、計画以上の進展と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
Chandra のアーカイブデータを用いた微細空間構造の研究を、引き続き進めていく。また、XRISM における初期観測ターゲットチームに参加し、打ち上げに向け、銀河団プラズマの物理的性質を最も引き出すことができるような観測戦略の詳細を詰めていく。開発面では引き続き Resolve チームに所属し、ノイズデータの解析や試験の参加を通して検出器性能を高めるべく研究を行う。深層学習を取り入れた新たなデータ処理手法の研究も前年度から引き続き行い、実装や性能評価を行うことを目指す。
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Research Products
(11 results)