2021 Fiscal Year Research-status Report
高圧下その場蛍光XAFS-XRD複合測定によるマグマ中のXeの化学状態の解明
Project/Area Number |
20K14584
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
若林 大佑 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 助教 (20759964)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | XAFS / 湾曲結晶 / 分子動力学計算 / 機械学習ポテンシャル / 能動学習 / 永久高密度化 / ズーミングX線顕微鏡 / フレネルゾーンプレート |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、初期地球においてXeが地球深部に固定される化学プロセスを考察することを目的に、マグマ中に微量に含まれるXeの局所構造とホストであるケイ酸塩メルトの構造の両方の情報を得られる高圧下その場X線吸収微細構造(XAFS)-X線回折(XRD)複合測定システムの立ち上げを行う。新型コロナウィルス感染拡大と使用予定だった大型プレスの故障を受けて本実験を進めることが困難だったため、ビームライン光学系の高度化を進めた。特に、初年度に開発を行っていた湾曲結晶による集光については、XAFS実験に十分利用できることを確認し、Xeの吸収端を含む高エネルギー領域で使用可能なシステムを整備した。 高圧実験が困難な状況が改善しない場合を考えて、高圧下におけるマグマ中のXeの状態の多粒子系のシミュレーションを行うための分子動力学計算法の開発を進めた。第一原理計算の結果に基づく機械学習ポテンシャルを用いた大規模計算法の試験を行った。溶融状態の場合、数万個に拡大した系の計算が発散してしまう問題があったが、能動学習を取り入れることで問題を緩和できることが明らかになった。 ホストとなるケイ酸塩メルトの中距離ネットワーク構造の圧力変化は、Xeの状態にも大きな影響を与えることが予想される。ケイ酸塩メルトのモデル物質であるSiO2ガラスは、ネットワーク構造の変化を伴う永久高密度化を起こすことで知られている。初年度に行った高密度化ガラスの分析から微細な不均質の存在が示唆されていたことを受けて、高分解能イメージングを行うための結像型X線顕微鏡の開発を行った。このX線顕微鏡は、複数のレンズ(フレネルゾーンプレート)を用いることで、自由に倍率を変更(ズーム)することができ、吸収だけでなく位相コントラストを強調した像を得ることができる。試験測定では最高分解能50nmを達成し、結果について論文をまとめて発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
測定および分析システムの開発および大型シミュレーションに向けた準備については順調に進展しているものの、新型コロナウィルスの感染拡大や実験装置の故障によって、出発物質の合成実験および高圧実験の実施が遅れている。実験が困難だった半面、理論計算では、機械学習ポテンシャルを導入することで、大規模でかつ信頼性が高い安定したマグマの分子動力学計算を行うための道筋を付けることができた。また、本研究に大きく関わるシリカガラスのネットワーク構造の変化について、相転移過程の不均質構造を観察する新たなX線顕微鏡の開発に成功し、論文として発表することができた。水を含むケイ酸塩ガラスの不均質構造に関する成果も挙げている。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度問題となった大型プレス装置の故障は復旧したものの、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、本研究の要であるXeガスの入手が絶望的になっている。そこで、実験を行うことは優先せずに、理論計算からのアプローチに重きを置く。まず、マグマのネットワーク構造とXeとの関係や結合の有無を明らかにするために、単純なシリカメルトにおいてXeを含んだ系の第一原理計算を行って結合性の評価を行う。その上で、機械学習ポテンシャルを用いた数万原子による拡大系の計算から、マグマとXeの不均質構造のシミュレーションを行う。最終年度に当たるため、これらの結果に基づいて、本研究が目標とするマグマ中のXeの高圧下における振る舞いについて考察を進める。既に、物性研究所のスーパーコンピュータの共同利用課題が採択されており、手法の確認が済み次第、本格的な計算を開始する。また、新しいX線顕微鏡の開発に成功したことから、永久高密度化ガラスに適用して、ネットワーク構造の不均質についてマルチコントラストによる観察を行う。結果は順次まとめて公表する。
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Causes of Carryover |
実験装置の故障やロシアによるウクライナ侵攻によって、出発物質の合成実験および予備実験の実施が遅れ、また新型コロナウィルスの感染拡大によって出張の機会が減ったため、それらにかかる費用の一部の執行を翌年度に繰り越すこととした。翌年度は理論計算を主軸とした研究に切り替えるものの、計算に関わる消耗品やX線顕微鏡実験のための物品に早急に使用する予定である。また、感染拡大への影響を慎重に見極めながら、研究協力者との打ち合わせや学会での成果発表のための出張旅費に使用する予定である。
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