2020 Fiscal Year Research-status Report
バイオマス炭素化機構の解明によるカーボンの結晶性制御とエネルギーデバイスへの応用
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20K15089
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
中野 知佑 岡山大学, 異分野融合先端研究コア, 特任助教 (20845458)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | バイオマス / 結晶性カーボン / アモルファス / 価数 / メカニズム |
Outline of Annual Research Achievements |
木質バイオマスはセルロース,ヘミセルロース,リグニンなどから構成され,これらは炭素含有割合が約50%と高く有用な炭素源である。本研究では,触媒金属と木質バイオマスとの相互作用を明らかにし,結晶性・アモルファス性を自在に制御したカーボンの合成法確立を企図した。 木質バイオマス(木材)の炭素化に際して生成するカーボンの結晶性を自在に制御できるようにするため,金属触媒(Fe)が木質バイオマスとどのように相互作用・反応するのかを検討した。木質バイオマスの炭素化は,金属触媒の含浸,乾燥,熱処理のプロセスを経る。令和2年度においては,1.金属触媒の担持後,2.結晶性カーボンの生成前,3. 結晶性カーボンの生成直後,4. 結晶性カーボン生成が充分に生成後 のそれぞれの段階においてX線光電子スペクトル分析(XPS)により金属の価数,配位環境を調べた。その結果,触媒が熱処理中にゼロ価に変化することが確認され,これが結晶性カーボンの生成において重要であることを見出し,マクロレベルの結晶性カーボン生成メカニズムを明らかにした。 また,合成したカーボンの特性評価として,負極ハーフセル,二極式セルをそれぞれ調製し,充放電特性評価装置によりリチウムイオン電池,および電気二重層キャパシターとしての特性評価を行った。その結果,合成した結晶性カーボンは高速充電領域では市販黒鉛と同程度の充電容量を示し,低速充電領域においても結晶性を高くすることで充電容量を向上させることに成功した。さらに,結晶性カーボンまたはアモルファスカーボンを混錬したイソプレンゴムの加硫速度,引張強度等を測定し,ゴム添加剤として評価した。その結果,既存のゴム添加剤(カーボンブラック)の80%程度の引張強度を示したほか,カーボンの更なる微細化(破砕等)を行うことで,より引張強度の向上が可能であることも示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
金属触媒(Fe)が木質バイオマスとどのように相互作用・反応するのかを明らかにするため,令和2年度においては主としてX線光電子スペクトル分析(XPS)により検討した。また,アルゴンスパッタを組み合わせることで深さ分析を行い,1.鉄の担持後,2.結晶性カーボンの生成前,3. 結晶性カーボンの生成直後,4. 結晶性カーボンが充分に生成後 の各段階における触媒の価数,配位環境の変化を,バイオマスの表面および内部それぞれで追跡した。これは本来,XPS分析とX線吸収微細構造解析(XANES)と組み合わせて評価し,結晶化メカニズムを提起する予定であったがXPS分析の結果が当初の想定以上にはっきりと表れたため,マクロレベルの結晶化メカニズムを令和2年度中に提起するに至った。 また,合成したカーボンの特性評価として,充放電特性評価装置によるリチウムイオン電池,およびキャパシターとしての評価を行った。合成した結晶性カーボンは低速充電領域においても結晶性を高くすることで充電容量を向上させることに成功した。カーボンの結晶性向上については,令和3年度に実施予定であったマイクロ波を用いた急速加熱によるカーボン生成機構への影響を検討し,合成後のカーボンの追加熱や,通常加熱と組み合わせることで高結晶性のカーボン合成が可能であることを明らかにした。 さらに,結晶性カーボンまたはアモルファスカーボンを混錬したイソプレンゴムの引張強度等を測定し,ゴム添加剤として評価した。アモルファスカーボン(官能基が残留)は当初,粒子サイズが大きい(マイクロメートル)ため低い引張強度を示すと予想したが,実際には一次粒子がナノオーダーの結晶性カーボンと同程度の値を示した。これはすなわち,官能基を残留させることで粒子サイズのデメリットを補えることを示しており,更に微細化して用いることで,より引張強度の向上が可能であることを示唆した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度において,金属とバイオマスの相互作用を明らかにするためXPS分析を実施した。これにより,バイオマスの炭素化過程における,マクロレベルの結晶化メカニズムを提起するに至った。これを精査するため,放射光施設SPring-8におけるX線吸収微細構造(XANES)解析を行い,金属の平均化数を評価する。また,広域X線吸収微細構造(EXAFS)解析を行い,金属の配位環境(近傍の官能基)を解析する。また,炭素化が進行するにつれて,金属とバイオマスの相互作用が弱まり,金属同士が凝集すると想定している。これについてもEXAFS解析により金属-金属結合の形成の有無を確認する。併せて,環境制御型透過電子顕微鏡(TEM)を用い,温度を変化させながら,金属ナノ粒子の形成を確認する。金属粒子が形成した時点で電子線回折(ED)を測定し,ナノ粒子の結晶状態も明らかにする。 また,出発原料の分子構造による影響も検討する。セルロース混在下でフェノール類とホルムアルデヒドを異なる重合度で重合し,分子レベルで混合したセルロース-フェノール樹脂複合体を合成する。同様に,置換基の異なるポリマー2~3種類でセルロース-ポリマー複合体を合成し,これらを,疑似的な木質バイオマスとして木材と同様に炭素化する。金属の価数,配位環境,粒子成長を比較して,出発原料の分子構造の違いによる金属-バイオマスの相互作用を明らかにする。
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Causes of Carryover |
金属とバイオマスの相互作用を検討するため,デモ機によるゲルマニウム(Ge)製1回反射ATR法による赤外分光分析を試行したところ非常に有用な結果が得られた。そのため,当該機器による分析は今後の研究の進展に大いに役立つと判断し,Ge-ATR反射板の購入を計画した。また,購入費用はエコノミー電気炉,マスフローコントローラ等の機器を自己充当により購入して充てることとした。しかし,これらの自己充当による購入後にGe-ATR反射板の前年度中の納入が不可となったため,残額が発生した。
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