2020 Fiscal Year Research-status Report
カチオン性π電子系とπ電子系の複合化による新規機能性材料の創出
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20K15355
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
田中 直樹 九州大学, 工学研究院, 助教 (00844672)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | カチオン性π電子系 / π-スタッキング / 自己集積 / ポリマーマトリックス / π共役系 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はカチオン性π電子系(π+)に着目し、π共役系が拡張したピリジニウムイオンの高い平面性と正電荷の非局在化に基づく自己集積化および新規イオン伝導体の開発に取り組んだ。 初めに溶解性の獲得と集積能向上に向けて、長鎖アルキル基を導入した拡張ピリジニウムイオンを合成し、その自己集積能を評価した。NMRスペクトルから、本ピリジニウムイオンは溶液濃度上昇によるピークシフトが観測され、そのシフト量はアルキル鎖をもたない場合と比べて大きく増加することが明らかになった。このことはアルキル基の導入による自己集積能の向上を示しており、集積体形成に基づくイオンチャネルの形成が期待できる。そこでイオン伝導材料への展開を考慮し、フッ素系ポリマーであるpvdf-hfpに対して、拡張ピリジニウムイオンを混合させることで、ポリマー/イオン複合膜を作製した。得られた膜の発光スペクトルから、ピリジニウムイオンに由来するピークの出現および添加量上昇に伴うピークシフトが観測された。また膜の粉末X線回折から、ピリジニウムイオンの添加量25wt%においてπ-スタッキング距離に相当する格子面間隔値(d値)が観測されたことから、ポリマーマトリックス中において、π-スタッキングの形成が示唆された。複合膜のイオン伝導性を評価したところ、ピリジニウムイオンの添加量が増加するにつれ、イオン伝導度の増加が観測された。特に、ピリジニウムイオンの添加量が20wt%から25wt%にかけて急激なイオン伝導度の上昇が観測されたことから、形成した集積体がイオンチャネルとしての役割を果たしていると考えている。 本年度は、溶液およびポリマーマトリックス中での拡張ピリジニウムイオンの自己集積能とイオン伝導性について明らかにした。この結果は、本申請書に記載したπ電子系との複合化(π+-π電子系)による材料展開への土台となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、カチオン性π電子系(π+)としてπ共役系が拡張したピリジニウムイオンの集積能の評価およびイオン伝導度評価に焦点を当て研究を行なった。その中で、拡張ピリジニウムイオンのもつ高い平面性を生かして、溶液および固体中において、自己集合挙動を観測することに成功した。また材料開発という観点から、ポリマーマトリックスに分散させたイオン伝導膜の開発に取り組み、ピリジニウムイオンの集積体形成に基づいたイオン伝導度の向上を示唆する結果を得た。これらの結果から、ピリジニウムイオンのもつイオン伝導体としてのポテンシャルを垣間見ることに成功したが、本研究目的である、「π+電子系とπ電子系の複合化による機能開発」には未だ到達していない。次年度以降は、本年度得られた結果を基盤として、π電子系との複合化に取り組み、π+-π電子系による機能開発に向けた研究を推し進める。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、π共役系が拡張したピリジニウムイオンがもつ自己集積能とイオン伝導性について評価し、材料へ展開するための土台を構築した。次年度は、(1)種々のπ電子系との相互作用の理解および(2)構築したπ+-π電子系のイオン伝導性について明らかにする。最終的には、(3)π+-π電子系のイオン伝導性とπ-スタッキングに基づく電子伝導性のマルチキャリア伝導の発現を目指す。 具体的な方策として、①拡張ピリジニウムイオンと種々のπ電子系の混合を検討する。混合後は、分光分析や単結晶X線構造解析を絡めて構造評価をするが、特にピリジニウムイオンの対アニオンを変調した際の集合挙動に着目する。アニオンの特性に依存した構造変化とそのイオン伝導性との相関を明らかにすることは、結晶工学分野に大きく進展できると考えている。また材料の利用を視野に入れ、②π+-π電子複合体のポリマーマトリックス中での集積挙動を調査する。これまでフッ素系ポリマーのみを検討していたが、他のポリマー、例えばポリエチレンオキシドやポリメチルメタクリレートなどの物性の異なるポリマーを選択し、複合体との相容性を確認する。ポリマーとの相容性が悪い場合、拡張ピリジニウムイオンの置換基として、アルキル基やパーフルオロアルキル基といった柔軟性部位の導入を図る。得られた複合膜は、光や熱による集積挙動の制御を検討し、最終的に高イオン伝導膜の作製を目指す。以上よりπ+電子系とπ電子系の複合化による機能開発を達成する。
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