2020 Fiscal Year Research-status Report
ウシにおける暑熱ストレス下での雌生殖器周囲の温度勾配維持機構の解明と繁殖性の改善
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20K15647
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
森田 康広 名古屋大学, アジアサテライトキャンパス学院(農), 特任准教授 (90818262)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 暑熱環境 / 卵巣温度 / 子宮温度 / 皮膚血流量 / 体温維持 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では雌性生殖器の温度勾配維持機構に着目し、その機構の本体は臓器血流であるとの仮説から、生殖器温度勾配維持の機序、および卵胞発育不全および排卵不全などの卵巣機能不全と生殖器の温度勾配および血流との関係を解明する。加えて、社会実装を見据え、生殖器の温度勾配を調節することで暑熱環境下での卵巣機能不全を防止、改善できるか検討する。本研究によって、雌性生殖器の温度勾配の維持機序に雌性生殖器の血流が関係していること、卵巣機能不全の予防において、性周期のどの時期に雌生殖器周囲の温度勾配が保たれることが重要であるかを解明できれば、熱帯地域や夏季の生産性、繁殖性が低下している世界中の多くの地域において、暑熱環境下での生産性、繁殖性を回復させる重要な知見を生み出すことが可能である。 本年度は生殖器の血流データ収集を可能にする実験方法を検討した。具体的には、超音波画像診断装置を使用し、子宮動脈の血流をパルスドップラー機能により測定する手法とウシにおいて、暑熱環境下での皮膚血流をポータブルの血流計を使用し、体温調節に重要な皮膚血流の測定方法を検討した。 その結果、検討サプリメントの投与によってウシにおいて体温が一過性の上昇を引き起こすことを新規の解析方法を使用することで確認した。また、体温上昇に先立ち、子宮動脈も拡張することを確認した。このことは検討物質が生殖器への血流を制御するサプリメントとして使用できる可能性があることを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究ではこれまでの国内外の報告から想定される以下の仮説について検証を行っている。本来であれば、暑熱環境が著しいカンボジアでも研究を展開する予定であったが、新型コロナ感染症の影響で渡航ができず、研究を設定できていない。1.卵巣、子宮、膣の組織血流量は性周期を通して変化し、血流量の変化と動脈―静脈間の熱交換、臓器温度の変化には関係性がある。2.卵胞が急速に大きくなる卵胞期には臓器血流量が増えるため、熱交換量が大きくなり、卵巣温度は低下し、生殖器の温度勾配は大きくなる。3.卵胞発育不全の個体は臓器血流が少ないため、この温度勾配が性周期を通して小さく、排卵不全の個体は排卵前に観察される温度勾配が正常個体よりも小さい。4.暑熱環境下では末梢の血管が外気を遮断するために閉鎖し、血流が減少し、温度勾配が小さくなる。5.末梢血管の拡張を引き起こす検知物質により雌性生殖器の血流が増加し、温度が低下するこのうち、本年度では上記の仮説を検討するための実験方法の確立を行ない、5の検討物質の作用について主に研究を行い、投与によってウシにおいて体温が一過性の上昇を引き起こすことを新規の解析方法を使用することで確認した。また、体温上昇に先立ち、子宮動脈も拡張することを確認した。このことは検討物質が生殖器への血流を制御するサプリメントとして使用できる可能性があることを確認した。
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Strategy for Future Research Activity |
以下の実験を本年度は行なっていく。初年度で確立した方法を用いて、膣、子宮、卵巣の温度を21日の性周期を通して経時的に観察することで、卵胞期または黄体期における生殖器の温度勾配の変化を観察する。同時に卵巣、子宮の状態を超音波画像診断装置で観察し、カラードップラー法を用いて血流の測定を行う。 次年度は日本だけでなく、名古屋大学カンボジアサテライトキャンパス附属農場の乳用種と肉用種についても卵胞期、黄体期における卵巣、子宮の温度、血流の検討を行うために実験を設定する。このことによって、日本では観察できない持続的な暑熱環境下での卵巣、子宮の温度変化、血流の変化を観察し、個体間の差異を検討する。具体的には、21日の性周期を通した卵巣動態と生殖器の血流量、温度勾配の測定をいかの手順で行う。1:卵巣動態:経直腸超音波検査により卵巣内の構造物を観察する。2:生殖器血流量:超音波画像診断装置のドップラー機能で、血流量を測定する。3:生殖器の温度勾配の測定:子宮、卵巣に針金型温度プローブを経腟で穿刺後そのまま留置し、ロガー型温度計にて日内変化および日間変化を測定する。また、血流計を使用し、昨年度に確立した手法を用いて、暑熱環境下での皮膚血流の変化と、腹腔内血流の変化を観察する。
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Causes of Carryover |
本年度は新型コロナ感染症が日本、および研究実施予定国であったカンボジア国において発生し、渡航が不可能であった。そのため、実験設定のための渡航及び、カンボジアで使用予定であった機材の購入を進めなかった。そのため上記に金額が発生している。これによって研究の進捗が遅れているが、本年度は日本国内でワクチン接種が進むと予想されるため、カンボジアに渡航し、実験の設定を行う予定である。また、渡航が不可能な場合であっても、日本国で可能な実験を先立って進める。日本国内においても研究実施については感染症の影響が本年度は少ないと予想されるため、昨年度実施できなかった研究を進めることが可能であると考えている。
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