2021 Fiscal Year Research-status Report
新規糖尿病モデルマウスにおける、インスリン分泌不全原因遺伝子の同定と機能解析
Project/Area Number |
20K15708
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Research Institution | National Center for Global Health and Medicine |
Principal Investigator |
中野 堅太 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, 研究所, 動物実験施設 専任研究員 (10753189)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 糖尿病 / ihs / Insulin hyposecretion / 疾患モデル / マウス / 耐糖能異常 / 低インスリン血症 / 病態発症機構 |
Outline of Annual Research Achievements |
Insulin hyposecretion(ihs)マウスは非肥満インスリン分泌不全型の新規糖尿病モデルである。本マウスは、経口糖負荷試験において、顕著な耐糖能異常と低インスリン血症を示し、さらに、膵灌流実験ではインスリン分泌不全の病態を呈する。本研究は、ihsマウスの糖尿病の原因遺伝子を同定し、その機能を明らかにすることを目的とする。令和2年度に実施したihs locus内に存在する遺伝子の発現解析の結果から、ihsマウスの膵島において完全な発現消失を示す有力な候補遺伝子を同定し、本遺伝子のノックアウトマウス(KOマウス)を樹立した。本年度は、このKOマウスを用いて以下の研究を行なった。 1. 膵島の形態学的解析: KOマウスでは膵島の破壊等の顕著な形態異常は認められなかった。またβ-cell massもコントロールマウスと同等であった。 2. 耐糖能・血中インスリン濃度への影響の検討:経口糖負荷試験を用いて耐糖能と血中インスリン濃度への影響を検討した。KOマウスは顕著な耐糖能異常と低インスリン血症を呈した。これらの表現型は、過去に我々が報告したB6.ihs-(D18Mit233-D18Mit233)(ihsマウス由来のihs locusをB6へ導入したコンジェニックマウス)で見られたものと一致する結果であった。 3. インスリン分泌解析:膵灌流実験を用いてインスリン分泌を評価した結果、KOマウスはコントロールマウスと同等のインスリン分泌能を示した。また、B6.ihs-(D18Mit233-D18Mit233)においても同様の結果が得られた。 4. RNA-seq解析:本遺伝子をKOした293細胞を用いて、RNA-seq解析により遺伝子発現プロファイルを取得した。Go term enrichment解析やpathway解析により標的パスウェイおよび遺伝子を特定中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我々が作成したKOマウスは、B6.ihs-(D18Mit233-D18Mit233)と表現型がほぼ完全に一致した。膵灌流実験において、KOマウスおよびB6.ihs-(D18Mit233-D18Mit233)がインスリン分泌不全を示さなかったことは予想外の結果であったが、ihs locusを野生型に置換したihs.B6-(rs29863120-D18Mit53) マウスでは膵灌流実験で顕著なインスリン分泌不全を呈することを見出した。これらの結果は、ihsマウスが持つ「糖負荷試験時の耐糖能異常・低インスリン血症」と「インスリン分泌不全」が、それぞれ別の遺伝子によって規定されることを示している。従って、我々が同定した遺伝子は前者の「耐糖能異常・低インスリン血症」の原因遺伝子であると考えられる。当初予定していたインスリン分泌不全の原因遺伝子とは異なるが、ihs locusに存在する「耐糖能異常・低インスリン血症」の原因遺伝子の同定が完了していること、さらに、すでに本遺伝子の機能解析に着手できていることから、研究計画は概ね順調に進んでいると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度の研究結果から、我々が同定した遺伝子は、「耐糖能異常・低インスリン血症」の原因遺伝子であることが示された。令和4年度は本遺伝子の機能解析(低インスリン血症を生じるメカニズム)および、相互作用分子の同定を行うため、下記の実験を実施する。 1.インスリン分解機構の解析:糖負荷試験時にKOマウスで見られる低インスリン血症の原因にはインスリンの1). 枯渇、2). 分泌不全、 3). 分解亢進、の3つ可能性が考えられる。本年度の結果から、KOマウスは膵島の形態および、インスリンの分泌に異常は認められないことから、本遺伝子は 3). のインスリンの分解亢進に関与すると推測される。KOマウスへヒトインスリン投与しその血中からの消失時間の測定、および、インスリン分解酵素の発現解析を通してインスリン分解経路の亢進の有無を検討する。またWestern blotや質量分析計を用いてインスリンの分子量から、インスリンの構造を解析し、さらに、KOマウスから分離した膵島の移植実験を通して、インスリンの安定性を検討する。 2.標的パスウェイおよび遺伝子の膵β細胞における機能解析:RNA-seqより得られた遺伝子発現プロファイルおよび、pathway解析から同定された標的パスウェイおよび遺伝子の膵β細胞における機能を明らかにするため、siRNAを用いたノックダウン、活性化剤、阻害剤の投与によりインスリンの分解や安定性に与える影響を明らかにする。 3.相互作用分子の同定:共免疫沈降法により相互作用タンパク質を抽出し、質量分析装置を用いてタンパク質を同定する。同定されたタンパク質に関して、上記2)と同様にβ細胞における機能を検討する。
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Causes of Carryover |
コロナウイルスの影響で、予定していた膵島の単離用試薬の納品が遅れたため、実験を来年度に持ち越したことにより、使用する試薬分約8,000円を次年度に繰り越した。
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