2020 Fiscal Year Research-status Report
条鰭類の進化モデルを用いた下垂体神経葉への軸索誘導因子の同定
Project/Area Number |
20K15834
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Research Institution | Jichi Medical University |
Principal Investigator |
東 森生 自治医科大学, 医学部, 講師 (90709643)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 下垂体神経葉 / 下垂体ホルモン / メラニン凝集ホルモン / 受容体 / in situ hybridization |
Outline of Annual Research Achievements |
条鰭類の魚種では一般に、下垂体神経葉にメラニン凝集ホルモン(MCH)ニューロンの軸索が投射し、MCHを血中に放出して体色を明化させる。申請者は、現生条鰭類で最初期に分岐したポリプテルスではMCHニューロンが投射しないこと、チョウザメではMCHニューロンが神経葉に投射することを発見した。令和2年度では、ポリプテルスとチョウザメのMCHニューロンにおける遺伝子発現を比較するために①レーザーマイクロダイセクション法によるRNA回収を効率化し、②in situ hybridization法の検出感度を向上させた。 【レーザーマイクロダイセクション法によるRNA回収の効率化】一般に組織形態を観察するためには、固定後に染色を施す必要がある。しかしながら、ポリプテルスとチョウザメの新鮮凍結切片において、有機溶媒による固定後にRNAの回収量が著しく低下した。そこで、組織切片を未固定のまま染色し、組織形態を可視化することを試みた。その結果、RNA回収の精度を向上させることに成功した 【In situ hybridization法の検出感度の向上】局所接着キナーゼを駆動するインテグリンの発現、神経葉形成部における細胞外基質成分の発現をin situ hybridization法で調べた。その過程で、組織染色方法を改善し、一般に発現量の低い受容体分子のmRNAの発現細胞まで検出を可能にした。その成果として、これまでに報告の無かった下垂体の内分泌細胞にMCH受容体が発現することを発見した。 令和2年度で改善した手法を用いて、令和3年度では神経葉に投射するMCHニューロンに特異な発現遺伝子を同定し、神経葉形成過程で局所接着キナーゼを活性化する因子の同定を進める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナウイルス感染症の影響で研究計画の「下垂体神経葉に投射するメラニン凝集ホルモン(MCH)ニューロンに特異な発現遺伝子の同定」に必要な魚種の入手が滞り、RNA-seq解析に必要な組織サンプルを令和2年度中に確保できなかった。一方で、組織切片を未固定のまま染色することを可能にし、レーザーマイクロダイセクション法によるRNA回収の精度を向上させることに成功した。この方法を用いて、令和3年度にMCHニューロンの遺伝子発現を網羅的に探る予定である。 また、研究計画に従い「神経葉形成過程で局所接着キナーゼを活性化する因子の同定」を進めるため、ゼブラフィッシュ胚のMCHニューロンにおけるインテグリンの発現、神経葉形成部における基質成分の発現をin situ hybridization法で調べた。その過程で、組織染色方法を改善し、一般に発現量の低い受容体分子のmRNAの発現細胞まで検出を可能にした。その成果として、これまでに報告の無かった下垂体の内分泌細胞にMCH受容体が発現することを発見した。この新規知見に関して、これまでに所属学会で発表し、令和3年度に原著論文として投稿する予定である。 以上から、研究計画の一部に遅延が生じているものの、改善された手法により令和3年度の研究を効率的に遂行できる。
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Strategy for Future Research Activity |
令和2年度で改善されたレーザーマイクロダイセクション法やin situ hybridization法を用いて、メラニン凝集ホルモン(MCH)ニューロンが下垂体神経葉に投射する仕組みを明確にするために令和3年度では下記の研究計画を実施する。 【神経葉に投射するMCHニューロンに特異な発現遺伝子の同定】ポリプテルスセネガルスとシベリアチョウザメの比較から、神経葉に投射するMCHニューロンで特異的に発現する遺伝子を探る。そのため、視床下部のMCHニューロンの局在領域をレーザーマイクロダイセクション法で回収し、RNA-seq解析で遺伝子発現を網羅的に比較する。加えて、MCHと同様に、白背景で飼育したチョウザメで高発現する遺伝子をリアルタイムPCRで特定し、in situ hybridization法で局在を精査する。さらに、免疫染色とin situ hybridization法による二重染色から、神経葉に投射するMCHニューロンに特異な発現遺伝子を同定する。 【神経葉形成過程で局所接着キナーゼを活性化する因子の同定】ゼブラフィッシュ胚のMCHニューロンにおけるインテグリンの発現、神経葉形成部における基質成分の発現をin situ hybridization法で調べる。また、局所接着キナーゼを活性化する未知のシグナルを阻害剤ライブラリーで探る。次に 、CRISPR/Cas9システムを用いて、MCHニューロンに発現するインテグリンや局所接着キナーゼを活性化するシグナル因子を欠損したゼブラフィ ッシュを作出する。その後、胚のMCHニューロンをホールマウント免疫染色で可視化し、共焦点レーザー顕微鏡で撮影した連続画像からニューロンの形態を三次元構築し、軸索投射領域の変化を調べる。
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Causes of Carryover |
【理由】コロナウイルス感染症の影響で研究計画の一部が遅延した。具体的には、初年度に計画していた「神経葉に投射するメラニン凝集ホルモン(MCH)ニューロンに特異な発現遺伝子の同定」に必要な魚種の入手が滞り、RNA-seq解析に必要な組織サンプルを確保できなかった。そのため、受託解析費用を余剰金として令和3年度で使用する。 【研究計画:神経葉に投射するMCHニューロンに特異な発現遺伝子の同定】 (1) ポリプテルスとチョウザメの比較から、神経葉に投射するMCHニューロンで特異的に発現する遺伝子を探る。そのため、視床下部のMCHニューロンの局在領域をレーザーマイクロダイセクション法で回収し、国内業者に依頼してRNA-seq解析で遺伝子発現を網羅的に比較する。(2) RNA-seq解析から、神経葉に投射するMCHニューロンで発現の高い遺伝子を選別する。その中で、MCHと同様に、白背景で高発現する遺伝子をリアルタイムPCRで特定し、in situ hybridization法で局在を精査する。(3) 免疫染色とin situ hybridization法による二重染色から、神経葉に投射するMCHニューロンに特異な発現遺伝子を絞り、その遺伝子がバソトシン (バソプレシンのオーソログ) やイソトシン (オキシトシンのオーソログ) ニューロンに共通して発現するか否かを評価する。
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