2020 Fiscal Year Research-status Report
ニオイによる捕食者への警告シグナル「警告臭」とそのミュラー擬態の解明
Project/Area Number |
20K15864
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
吉村 友里 九州大学, 農学研究院, 学術研究員 (10734262)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 捕食回避 / 対捕食者 / 化学防御 / 両生類 / カエル / 匂い / 揮発性 / GC-MS |
Outline of Annual Research Achievements |
有毒な種などが自らの危険性を示す警告シグナルは、派手な体色などの「警告色」が有名である。だが、夜行性の種や色覚を持たない種に対しては、色などの視覚シグナルよりも嗅覚シグナルが有効であると考えられる。先行研究により、ツチガエルはシマヘビからの捕食を不味い皮膚分泌物により回避することができ、そのニオイがヘビに対して警告シグナル(警告臭)として働くことが示唆されている。さらに、有毒のアカハライモリもニオイを有し、両者のニオイが似ていることから、毒を持つ生物が似た体色をもつミュラー擬態がニオイにおいても存在する可能性を見出した。したがって本研究は、シマヘビに対する警告臭であるツチガエル皮膚分泌物のニオイ分析により①警告臭として働く成分を特定することと、有毒のアカハライモリのニオイ成分との比較によって、②警告シグナルとして働くニオイにおけるミュラー擬態の存在を世界で初めて示すことを目的としている。 本年度は、佐賀県で捕獲したツチガエルおよびアカハライモリを対象に、体表のニオイを固相マイクロ抽出(SPME)法で捕集し、GC/MS(Agilent 7890A/5975C)による揮発性成分分析を行った。成分の同定は装置に付属するソフトウェアを用いたライブラリー検索により行い、各種の分析に用いた個体すべてから検出された成分を、その種のニオイ成分として採用した。その結果、ツチガエルで1成分、アカハライモリで2成分を特定できた。だが、主要成分において両種で共通する成分を確認することはできなかった。両種のニオイの印象は似ていることから、微量成分についても追加解析するとともに、ニオイの類似性の評価方法を再検討する必要がある。なお、この内容については国内学会で発表し、各成分と標準品との一致性を確認した後に論文化する予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う「緊急事態宣言」や他県への移動自粛の動きにより、予定していた他県でのサンプリング活動が行えず、分析対象としていた個体の確保およびその比較分析ができなかった。また、自身の妊娠による体調変化および産休による研究中断も生じたことで、本年度後半に予定していた標準品を用いた成分の同定や解析が計画通り実行することができなかった。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究の結果、ツチガエルとアカハライモリの主要なニオイ成分において共通成分を確認することができなかった。これを踏まえ、警告シグナルとして働くニオイの擬態を検証する本研究を遂行する上では、ニオイの類似性の評価方法を再検討することが課題となった。対応策として、主要成分だけでなく微量成分についても着目するとともに、主成分分析による類似性の評価やにおい識別装置での測定も実施を検討している。また、研究計画通り、捕食者を用いた実験を実施することで、アカハライモリのニオイを学習した捕食者が、ツチガエルのニオイを避けるといったニオイの効果を示すことで類似性の評価を進める予定である。
|
Causes of Carryover |
本年度は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う「緊急事態宣言」による研究活動の制限と、自身の妊娠による体調変化および産休による中断によって、本年度の研究計画の一部を実施できなかったことで次年度使用額が生じた。具体的には、①他県での分析対象個体の捕獲とその個体の分析および比較解析、②標準物質を用いた検出ピークの成分同定が実施できなかったことで、①に必要な旅費が発生せず、①や②の分析時に必要であった物品費および人件費の支出が無かった。加えて旅費に関しては、③参加を予定していた学会大会がオンライン開催となったことで国内出張が全て無くなった。 次年度以降、①については、社会的状況を見ながら他県での捕獲を実施して旅費として計画通り使用する、もしくは研究協力者に現地での捕獲を依頼し、人件費(謝礼金)として使用予定である。②については、次年度に実施して使用予定である。③で生じた額は、今年度の研究結果を踏まえ、追加の課題となったニオイの類似性を評価するための費用として使用を検討している。
|