2021 Fiscal Year Research-status Report
真社会性昆虫シロアリにおける行動の可塑性に与える社会の役割
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20K15881
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Research Institution | Kwansei Gakuin University |
Principal Investigator |
矢口 甫 関西学院大学, 理工学部, 研究員 (10803380)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 社会性昆虫 / 防衛行動 / 行動可塑性 / 脳内遺伝子発現 / RNA-seq |
Outline of Annual Research Achievements |
他個体の存在という環境要因を通じて行動パターンを可塑的に変化させる分子機構を明らかにするため,ネバダオオシロアリにおける他個体の認識にかかわる因子の特定とその受容機構を調べることを目指している.これまでに他個体の存在に応じて,防衛行動を可塑的に変化させることが明らかになったため,当該年度は再現性を検証するためにサンプル数を増やし行動解析を引き続き実施した.さらに,防衛行動の変化を生みだす遺伝子を探るため,脳を対象とした次世代シーケンサーを利用した網羅的な遺伝子発現解析(RNA-seq解析)を実施した.本種には他個体の育児を行う職蟻の他に防衛を行う兵隊が存在し,兵隊が居ない環境では職蟻が積極的に巣を防衛することが2021年度の研究において示された.そのため,職蟻と兵隊の脳を対象に遺伝子発現解析を行ったところ,両者の間で遺伝子発現パターンが顕著に異なることがわかった.また,兵隊の脳内ではインシュリンペプチドやTGFβシグナル因子などが高発現しているのに対し,職蟻の脳内ではLong-noncoding RNAが高発現することを見出した.これらの候補遺伝子は社会環境に応じて変化する可能性が高い.シロアリの脳内を対象にしたRNA-seq解析は世界で初めてであり,兵隊あるいは職蟻に特徴的な発現遺伝子はこれまでに報告のない未知遺伝子であることも考えられる.今後,遺伝子解析の精度を高める必要があるとともに,候補遺伝子の機能・局在解析を進める予定である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度に実施した研究から,他個体に応じて防衛行動パターンを可塑的に変化させることが判明したため,その制御機構の解明に注力した.この研究は本研究課題の一環と位置付けている.現在までに,再現性を検証するためにサンプル数を増やしている最中であるものの,必要データは全て取得できたため,投稿論文を準備している.また,2021年度の末に着手したRNA-seq解析が軌道に乗り,遺伝子解析に必要なサンプル数を整えている.今後は,夏までに実験材料を効率的かつ大量に採集するとともに,詳細な遺伝子解析に着手する予定である.以上から,期待通りの成果をあげることができたと判断している.
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Strategy for Future Research Activity |
バイオインフォマティクス手法を最大限に駆使することでRNA-seq解析を強力に推し進める.また,遺伝子の機能解析と組み合わせた行動実験を新たに展開させる.具体的には,RNA-seq解析で得られた候補遺伝子をRNA干渉法によって発現量を低下させた後,防衛行動を詳細に観察する.また,候補遺伝子について,mRNA in situ ハイブリダイゼーション法を用いて,脳内のどの領域に発現局在するかを確かめる.
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Causes of Carryover |
最大限のスピードで解析を進めているが,実験に必要な個体数を回収するには多くの時間を要してしまう.現在のところ所属機関は次世代シーケンサーを保有していないため,RNA-seq解析はライブラリー調整を含めて外注している.以上から,個体数の確保に遅れが生じ,年度内の外注シーケンスに間に合わなかったため,次年度に研究費の一部を繰り越すことにした.2022年度は,多額の費用がかかる外注シーケンスに繰越金を使用する予定である.
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