2021 Fiscal Year Research-status Report
膵臓正常組織に蓄積した遺伝子変異解析による膵癌発症のメカニズムの解明
Project/Area Number |
20K17021
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
池川 卓哉 神戸大学, 医学研究科, 医学研究員 (10843849)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 膵癌 / 遺伝子変異 / マイクロRNA |
Outline of Annual Research Achievements |
≪膵癌の高リスク患者では、病理学的に正常な膵組織にすでに遺伝子変異が広範囲に蓄積し、癌化につながっているのではないか?≫という仮説に基づき、本 研究では①膵癌手術検体の癌部・非癌部の遺伝子解析を行い、病理学的に正常な膵組織で膵癌発症に関わる遺伝子変異の蓄積の有無の検証、②組織中の癌部・非 癌部のマイクロRNAの解析、を行うことを目的としている。過去10年の膵癌切除例254例中、遺伝子解析の不適症例を除外した158例の手術検体からDNA抽出および遺伝子(KRAS、TP53、CDKN2A、SMAD4)の変異を解析した。膵嚢胞性腫瘍の一つである膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)を併存することが、膵癌の高リスクの要因の一つとして知られており、膵癌発生メカニズムを知る上でIPMN併存膵癌の生物学的特徴の解析は重要と考えられ、IPMNの併存の有無(IPMN併存膵癌21例、非併存膵癌137例)で解析した。また、癌周囲微小環境の構成因子である免疫担当細胞や間質の膠原線維は膵癌の進展や転移に重要な役割を担っていることが知られており、癌微小環境の評価を評価した。 KRAS、TP53、 CDKN2A、SMAD4の変異率は、IPMN併存膵癌・非併存膵癌の両群で有意差は認めなかった。癌微小環境の評価として免疫担当細胞の浸潤の程度と癌周囲の線維化の程度の比較では、 IPMN 併存膵癌は CD4 陽性 T 細胞浸潤が多く、間質も豊富であることが示唆された。しかし、プロペンシティスコアマッチングで年齢やステージを一致させたコホートにおいてはこれらの因子に有意差はみとめなかった。IPMN併存膵癌と非併存膵癌の遺伝子変異や癌周囲微小環境に差は認めなかった 。正常膵臓のDNA抽出・変異の解析やマイクロRNAの検索により、今後、膵癌発生における遺伝子変異の蓄積についてさらに検討を行っていく予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
IPMN併存膵癌は21例、通常型膵癌は137例の手術検体からDNA抽出を行った。抽出したDNAを用いて、KRAS、TP53、CDKN2A、SMAD4に対するターゲットアンプリコンシーケンスを実施した。さらに TP53、CDKN2A、SMAD4については免疫染色とddPCR法による CNV 解析を追加し、シーケンスデータと免疫染色、CNV解析を統合して遺伝子変異の有無をより正確に判定を行った。また、癌周囲微小環境の構成因子である免疫担当細胞や間質の膠原線維は膵癌の進展や転移に重要な役割を担っていることが知られており、膵癌の予後と関連するという報告がなされている。そのため、癌微小環境の評価として、腫瘍周囲の免疫担当細胞と線維化・間質マーカーを、免疫担当細胞の評価として、免疫染色によりCD4陽性T細胞、CD8陽性T細胞、FOXP3陽性T細胞を区別して腫瘍周囲への集簇の程度を評価することとした。線維化や間質の指標としては免疫染色でαSMA 陽性線維芽細胞数とEVG染色での膠原線維の量を評価した。 KRAS(IPMN併存膵癌95.2%vs IPMN非併存膵癌92.0%、p=0.60)、TP53(66.7%vs68.6%、p=0.86)、 CDKN2A(57.1%vs65.0%、p=0.49)、SMAD4(28.6%vs39.4%、p=0.34)で、両群で各遺伝子変異の有無に有意差は認めなかった。IPMN 併存膵癌は CD4 陽性 T 細胞浸潤が多く、間質も豊富であることが示唆された(CD4 陽性 T 細胞浸潤高値率, IPMN 併存膵癌 71.4% vs 非併存膵癌 48.2%, P = 0.05; CD8 陽性 T 細胞浸潤高値率, 42.9% vs 50.4%, P = 0.52; EVG 染色高密度率, 76.2% vs 46.7%, P=0.01)の結果であった。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後、正常膵臓についてもDNA抽出を行い、変異の解析を行っていく。抽出されたDNAについてターゲットシーケンスを行い、癌部の遺伝子変異との相違について、比較検討を行う。また、頻度の高い変異であるKRAS・CDKN2A・TP53・SMAD4についてはターゲットシーケンスで検討を行うが、頻度の低い遺伝子変異についても検討を行うため、全ゲノムシーケンスを行う。癌部と非癌部の遺伝子変異を検討することにより、膵癌に至る前の、どの段階で、どこに、どのような、遺伝子変異が起こり膵癌発生につながっているのかの解明を目指す。また、癌部・非癌部の遺伝子解析を行い、非癌部特異的な遺伝子変異の蓄積が確認された場合には、正常組織中で特異的に上昇しているマイクロRNA Arrayにて 解析を行う。正常部の遺伝子変異由来のマイクロRNAを血中でとらえることができれば膵癌の早期発見につながると考える。血中のマイクロRNA解析は神戸大学に冷凍保存されている膵癌患者のものを使用し、術後再発のない患者の手術前後の血液中で同様のマイクロRNAの発現パターンが検出されれば、正常部の遺伝子変異由来である可能性がある。正常組織の遺伝子変異由来のマイクロRNAの血中での検出が難しい場合には、「正常組織の遺伝子変異解析による、IPMNと通常膵癌 を含めた、膵腫瘍の発生の包括的メカニズム解明」を目的として、IPMNの併存の有無と遺伝子変異の関連について、非癌部の遺伝子変異も含めてさらなる検討を行っていく。
|
Causes of Carryover |
癌周囲微小環境の評価を行うために、計画を一部変更したため。引き続き、予定の研究計画を進めていく予定である。
|
Research Products
(1 results)
-
[Journal Article] ASO Visual Abstract: Comprehensive Analysis of Molecular Biological Characteristics of?Pancreatic Ductal Adenocarcinoma Concomitant with Intraductal Papillary Mucinous Neoplasm2022
Author(s)
Tsujimae M, Masuda A, Ikegawa T, Tanaka T, Inoue J, Toyama H, Sofue K, Uemura H, Kohashi S, Inomata N, Nagao K, Masuda S, Abe S, Gonda M, Yamakawa K, Ashina S, Yamada Y, Tanaka S, Nakano R, Sakai A, Kobayashi T, Shiomi H, Kanzawa M, Itoh T, Fukumoto T, Ueda Y, Kodama Y.
-
Journal Title
Annals of Surgical Oncology
Volume: -
Pages: -
DOI
Peer Reviewed