2020 Fiscal Year Research-status Report
地域で生活する統合失調症をもつ人が「薬を飲まない」選択を考える時の主観的体験
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20K19099
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Research Institution | Ishikawa Prefectural Nursing University |
Principal Investigator |
川村 みどり 石川県立看護大学, 看護学部, 講師 (20347363)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 薬物治療 / 統合失調症 / KJ法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はCOVID19感染拡大防止のため、計画通りに実施できなかった。外部の方と直接接触せず取り組む方針での実施に修正した。2019年度に行った半構造化面接の分析と、研究テーマに関連する資料収集、海外における地域生活支援に関するオンライン研修を行った。 面接参加者である地域で生活する統合失調症をもつ人は、40-60歳代の6名(男性5名、女性1名)で、彼らの内服歴は約15-32年であった。健康・病気、治療薬等に関する、一人あたり約30分の語りを逐語録に書き起こし、KJ法でデータを構造化した。抽象的な概念;【シンボルマーク】によるストーリーラインが見出され、次年度に発表を予定している。 統合失調症者の「薬を飲まない」選択への専門職者の対応例を知るため、専門職者が執筆した薬物治療に関する一般書籍を収集した。統合失調症者も入手可能な書籍であれば、「薬を飲まない」選択も含めて統合失調症者の心理や行動に対して十分に配慮した説明がされていると考えたからである。次年度、精読をして専門職者と統合失調症者のそれぞれの立場で、内容を整理比較する予定である。 オンライン海外研修では、フィンランドにおけるオープンダイアローグの取り組みを、現地病院の作業療法士や利用者、医師などの講義を受けた。対話に基づく治療を可能にする医療システムの構築がオープンダイアローグの根底にあり、単なる単に当事者との対話ではないことを理解した。当事者の発言を医療システムに連動させる実際を知ることで、本研究の在り方への示唆を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2020年度はCOVID19感染拡大防止のため、本研究テーマに直結した面接による予備調査を実施できなかった。対面での面接を、Web会議用アプリを用いるオンライン面接に切り替える代案もある。しかし、研究参加を依頼したい地域で生活する人々の通信環境の整備は、個人の力量に委ねられるため未知である。もし、通信環境の設定を援助するなら、直接会うことがやはり必要となる。また、参加者自身がリラックスした条件下の方が、初対面での面接の語りが豊かになると考える。そのため、COVID19 の感染状況が十分に落ち着いてから、研究参加者をリクルートすることにした。 また、統合失調症者の地域生活を支援する専門職者(例;訪問看護ステーションや精神科デイケアに勤務する看護師)を対象とした面接を、統合失調症者への予備調査の代案として検討した。地域で身近に統合失調症者と関わる専門職者は、本人の薬への本音を見聞する機会が多いと考えたからである。しかし、専門職者らも、COVID19 対策で従来の業務よりさらに負荷がかかっている現状がある。 本年度は、統合失調症者や専門職者に直接会う前に、既成の資料にみる薬物治療における両者の考え方や関係性を整理比較することにした。資料は、Web通販も含め書店で入手可能な一般的な書籍とした。一般書籍であれば、地域で生活することを前提として執筆されていると予測したためであった。 研究者のこれまでの地域で生活する統合失調症者に協力を得た面接の逐語録を本研究テーマに即した視点で読み直し、自由な混沌とした語りから薬に対する主観的体験をKJ法による統合によって構造化を試みた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度入手した資料を読み、観点を整理する。その際、専門職者の説明と当事者の同意という相互作用を仮定し、資料の記述を両者の立場で整理する。その結果を基にインタビューガイドを作成し、COVID19感染状況に応じて「薬を飲まない」選択に関する統合失調症者への面接を開始する。 6名の協力者との面接(2019年実施)から得た、健康・病気、治療薬等に関する語りをKJ法で構造化したところ、抽象的な概念;【シンボルマーク】によるストーリーラインが次のように見出された。地域で生活する統合失調症者本人は、自分の病気を【「頭がオーバーヒートする病気」と認識】していた。治療を受けても病気の影響で健常者のようには【働けず収入がない】ため、生きる上で制約が生じる【病気のしんどさをわかってほしい】と周囲に理解を求めていた。医師と看護師の【助言を信頼する】ことで治療を続け、【薬がイヤになる瞬間がある】が【適量の薬で良い調子を保つ】ことで自信を得ていた。本人の弱点を知る【家族は味方】で、【近隣から受け容れられている安心】によって生活していた。 自分の努力として【日々、健康に過ごす】ことで体調を整え、病気にとらわれ過ぎず【社会に役立つ生き方をめざす】ようにしていた。 【薬がイヤになる瞬間がある】【適量の薬で良い調子を保つ】に関する語りをより丁寧に聴きとることで、「薬を飲まない」選択を考える統合失調症者の主観的体験を知り得ると考える。イヤになる瞬間について中立的に語っていただく手立てを研究者が獲得していないと、協力者は周囲が望む選択を中心に語る可能性がある。 予備調査に先立ち、精神障碍者によるアドバイザーを得ることが有意義であると考える。研究参加者とは別に、研究へのアドバイザーとしてのトレーニングを受けている精神障碍者への協力を得られるよう、関係者に打診する。
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Causes of Carryover |
COVID19感染状況が落ち着き次第、研究へのアドバイザーや協力者などに関する予算執行する見込みである。
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