2021 Fiscal Year Research-status Report
北極圏海氷域における微量金属元素「マンガン」の役割
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20K19949
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
漢那 直也 東京大学, 大気海洋研究所, 助教 (90849720)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 微量金属 / 海氷 / 北極海 |
Outline of Annual Research Achievements |
北極圏海氷域における微量金属元素「マンガン(Mn)」の役割を明らかにするために、2021年度は主に以下の取組みを行った。 1.北海道サロマ湖の海氷および海水中のMnの定量評価を行った。 2.北極海での現場観測が実現し、海氷域でMn分析用の海氷、海水試料を採取することに成功した。 3.新規製作したMnの分析装置を用いて、海水中のMnの分析がほぼ可能になった。 1について、2020年度にサロマ湖で採取した海氷下海水中のろ過Mn(溶存態Mn)を誘導結合プラズマ質量分析計(ICP-MS)で分析した。海水中の溶存態Mn濃度の鉛直分布は、表層1 m(115 nM)から底層10 m(53 nM)にかけて減少した。一方、海氷の融け水中の溶存態Mn濃度は、800 nMを超える高い値を示した。分析結果から、海氷からMnが放出されたことで、表層水中のMn濃度が増加したことが考えられた。2について、ロシアの砕氷船R/V Akademik Tryoshnikovに乗船し、北極海を調査する国際観測航海(2021 NABOS Expedition)に参加した。ペリスタルティックポンプを用いて、ラプテフ海、東シベリア海の表層水を船の舷部から採水した。また船から北極海の海氷上へ降りて氷上観測を実施し、海氷下の海水と海氷試料を採取した。これらはMn分析用の試料として日本へ持ち帰り、分析の準備を進めている。3について、2020年度に新規製作したMn分析計の分析ラインを組み上げ、ルミノール化学発光法を用いた分析法の検討を行った。検討した分析法を用いて、海水中のMnを定量的に評価した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度にサロマ湖で採取した海氷下海水中の溶存態Mnの分析が完了した。また北極海の観測が実現し、貴重な海氷、海水試料を日本に持ち帰ることができた。2022年度は、溶存態Mnに加え、海氷、海水中の未ろ過Mn(全Mn)の分析を進める予定であり、その見通しは立っている。また新規製作したMn分析計について、分析ラインを組み上げ、分析法の検討を行った。Mnの分析を妨害する鉄を、海水中からどのように除くかが主な検討課題であったが、Feと結合するキレート樹脂カラムを分析ラインに導入することで、海水中からFeのみを除くことが可能になった。新規製作したMn分析計は、ICP-MSを用いたMnの分析と比較して、海水中のMnを迅速に分析することができるため、分析時間の大幅な短縮につながる。一方で、外洋水などMn濃度が極めて低い(~0.5 nM)海水試料については、現状のMn分析計では定量評価が難しいことも明らかになった。2022年度は、Mn分析計の感度向上を目指した検討も進めていく。
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Strategy for Future Research Activity |
現状では、北海道サロマ湖と北極海について、Mn分析用の海氷、海水試料が集まり、Mnの分析を進めている。さらに、新型コロナの影響で延期になった極北カナダの海氷観測が2022年5月に行われる。本観測への参加が決まっているため、極北カナダの海氷、海水試料についてもMnの分析を進めていく。Mnに加え、その他の化学成分分析(溶存有機炭素、水の酸素安定同位体比など)も行っており、現場の海洋物理データ(水温、塩分など)と組み合わせ、北極圏海氷域におけるMnの役割を明らかにしていく。また海氷および海氷下の海水試料を用いて、Mnの酸化速度実験や、光照射によるMnの生成速度実験を室内実験室で行い、海氷域におけるMnの生成・消失メカニズムを明らかにしていく。
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