2022 Fiscal Year Research-status Report
障害者の文化芸術活動を社会的価値の観点から推進するための新しい仕組みをつくる
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20K20118
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
村谷 つかさ 九州大学, 芸術工学研究院, 助教 (30834428)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 社会包摂 / 芸術活動 / 指標 / 評価 |
Outline of Annual Research Achievements |
障害者の文化芸術活動により共生社会の実現につながる社会的価値の創出が期待されるが、それを評価する指標は未だない。本研究は、評価学の手法を活用し、障害者支援施設で実施される文化芸術活動の目的と戦略、効果の構造を明らかにすることを通して、社会的価値という観点から活動を評価し推進できる仕組みをつくることを目的としている。2020年度は、障害者分野に限らず、社会包摂に関連する事例の調査や知見の整理を行うことを試みた。社会包摂につながる芸術活動の評価に長年取り組む先駆者たちへのインタビューや文献調査から、評価は活動の目的に沿って行うことが重要だが、目的が明確でないまま紋切り型の事業評価が実施されることが多く、活動の価値を捉えることに役立っていないことなどが課題としてわかった。そしてこの課題には、事業実施団体や行政が自分たちが推進する活動の目的を明確な言葉として具体化できていないという要因がある。活動の社会的価値を捉えるためには、各障害者支援施設における活動目的を明確に捉えるとともに、まだ言語化できていないが活動によって実現したいと願う未来の状況についても、質問を投げかけながら丁寧に言葉にしていく必要があると言える。2022年度は、国内の障害者施設3箇所に加え国外の障害者施設1箇所を訪問し、作業内容の調査や職員へのインタビュー調査を行った。また、子ども向けのソーシャルビジネスを行う事業所にもインタビュー調査を行い、障害者施設における活動の事業評価と対比させながら活動の価値を捉えるための方法について検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
社会包摂につながる芸術活動を、障害者支援施設外部から推進しようとする側の活動目的の明確化、プログラム実施、評価という流れの道筋をつけることはできたが、障害者の芸術活動に関する障害者支援施設での現地調査は予定通り進めることができていない。障害者支援施設での取り組みは、目の前にいる障害のある人の状況を基に判断し、多様に活動を展開している例が多くあるため、インタビューのみでなく現地調査を行い、活動環境づくりも含めて把握することが有効である。2022年度もコロナの影響で、施設側で感染者が発生したり、感染予防の観点から訪問者を制限したりしていたことから、施設に訪問について日程調整調を行うことが難しく、障害者福祉施設国内3箇所と国外1箇所の訪問を1度ずつ行えたのみであるが、必要な情報を捉え整理するには複数回の訪問が必要となる。そうした中でも、調査先である施設から、活動を支え発展をサポートするために必要な支援ツールの開発について要望を受けるなど、現場でプログラム実施や評価のあり方について有益な情報を得ることができた。施設で日常的に使えるツールを開発することで、事業評価にもつなげられる可能性が感じられたため、2023年度は内容について更に検討したい。しかしながら、現地調査が足りておらず2023年も引き続き調査を行う必要があるため、「やや遅れている」と進捗状況を判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナの収束により、自由な移動が可能となってきたことから現地調査を積極的に行い、研究課題に対し必要な要素を得ることを早急に行う必要がある。障害者の芸術活動を社会的価値の観点から評価するために必要な知見に関し、関連分野における社会包摂につながる芸術活動の評価の実態や視点と比較を行いながら、障害者の芸術活動との共通点ないし、独自な点を明らかにする。また、障害者施設の日々の支援に活用でき、且つ事業評価にも活用できるツールの開発について、調査先の施設から得た情報を基にしたアイデアがあるため、引き続き施設と協働して内容の開発を行う。さらに、ソーシャルビジネスを行う事業所に対し調査を行える環境を新たに得たので、活動内容の価値を捉えるための評価手法を検討し、障害者施設でも応用できるような手法を検討する。創作活動歴の長い障害者施設には、実践知が蓄積されているためそれらを捉えながら実際の評価に結びつけられる仕組みについてデザインの試作を行い、その検証を繰り返しブラッシュアップを行う。
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Causes of Carryover |
コロナの影響により障害者支援施設での現地調査が十分に行えず関連する費用について発生しないものがあった。付随して、発表するための研究成果も十分にまとめることができなかったため、研究発表のための費用が発生しなかった。2023年度以降に、調査及び研究発表において使用する予定である。また、現地調査に伴う必要物品の購入も予定している。現場で使用できるツールのデザインに係るデザイン料や研究の成果報告を行うためのホームページ作成の経費として使用する可能性がある。
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