2020 Fiscal Year Research-status Report
植物病原菌の起源を探る-宿主特異的毒素を生産するアルタナリア病原菌を例として
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20K20298
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | Chubu University |
Principal Investigator |
柘植 尚志 中部大学, 応用生物学部, 教授 (30192644)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
児玉 基一朗 鳥取大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (00183343)
足立 嘉彦 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 果樹茶業研究部門, ユニット長 (70355387)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 植物病原菌 / 菌類 / 植物 / 病原性 / 進化 / 宿主特異的毒素 |
Outline of Annual Research Achievements |
Alternaria alternataの7つの病原型の病原性は、宿主特異的毒素によって決定されている。先に、5つの病原型から毒素生合成遺伝子(TOX)クラスターを同定し、それらが生存には必要でないconditionally dispensable(CD)染色体に座乗することを見出した。さらに、CD染色体には共通起源となった染色体が存在すること、CD染色体の成立は古く、その成立には野生宿主が関与したことを示唆する結果を得た。本研究では、TOXクラスターとCD染色体の起源を検証するとともに、野生宿主を探索する。今年度は、主に以下の研究を実施した。 前年度までに、リンゴと同じバラ科のボケとユスラウメの一部系統が、リンゴ斑点落葉病菌とそのAM毒素に感受性であることを見出した。ボケやユスラウメが、リンゴ斑点落葉病菌の自然宿主であれば、両植物に発生した自然病斑から、本菌が分離されるはずである。今年度は、ユスラウメ葉に発生した自然病斑を採取し、病斑から菌を分離した。分離菌のうち、胞子形態からAlternaria属菌と同定された菌株について、AM毒素生産性と感受性リンゴ品種に対する病原性を検定した。その結果、異なる病斑から分離した20株がAM毒素を生産し、リンゴ、ユスラウメ、ボケにリンゴ斑点落葉病菌と同様な病原性を示すことが確認され、ユスラウメが本菌の自然宿主であることが明らかとなった。 昨年度、モクレン科のユリノキがAM毒素に感受性であり、リンゴ斑点落葉病菌の胞子接種によって1~2日間で病斑が形成されることを見出した。そこで、本菌のGFP発現株の胞子を用いて、ユリノキ葉への感染行動を観察した。その結果、本菌の胞子はユリノキ葉上で正常に発芽し、付着器を形成、表皮細胞に侵入し、細胞内に蔓延することが確認された。以上の結果から、ユリノキもリンゴ斑点落葉病菌の潜在宿主であることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
A. alternataは自然界に広く分布する本来腐生的な糸状菌である。したがって、宿主特異的毒素を生産する7つの病原型は、それぞれ固有の毒素生産能を獲得することによって病原菌化したと考えられ、腐生菌の病原菌化、すなわち病原菌の起源を研究するための単純かつ好適なモデルである。 A. alternata病原菌のTOXクラスターが座乗するCD染色体の起源染色体の探索については、起源染色体候補を保有する腐生的(非病原性)菌株のゲノムドラフト配列を次世代シークエンサーを用いて決定し、これまでに見出されているCD染色体保存領域を同定した。 TOXクラスターの起源遺伝子の機能解析については、リンゴ斑点落葉病菌のAMTクラスターの一部遺伝子の起源と予想されるコムギ葉枯病菌を用いて、そのAMT相同遺伝子(MgAMT)の機能を解析した。MgAMT1破壊株の形質を詳細に調査し、MgAMT1(MgAMTクラスター)が病原性、胞子形成、栄養生長に関与しないことを明らかにした。この結果は、コムギ葉枯病菌では病原性に関与しなかった遺伝子が、A. alternataに水平移動し、新たにAM毒素の生産に利用され、病原性進化に活用されたことを示唆している。 A. alternata病原菌の野生宿主の探索については、リンゴ斑点落葉病菌のリンゴ以外の宿主として、ボケ、ユスラウメおよびユリノキを見出した。さらに農研機構果樹茶業研究部門に保存されているバラ科果樹の多数の系統について、リンゴ斑点落葉病菌、ナシ黒斑病菌およびイチゴ黒斑病菌に対する感受性検定を進め、主要品種以外にも感受性品種が存在することを見出している。 今年度は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、サンプリングのための出張を取りやめざるを得なかったが、次年度への研究延長も承認されており、全体的に研究は順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
A. alternataの7つの病原型のうち、バラ科作物を宿主とするリンゴ斑点落葉病菌、ナシ黒斑病菌、イチゴ黒斑病菌を主に用いて、以下の研究に取り組む。 腐生的(非病原性)A. alternata菌株が保有すると推定されるCD染色体の起源染色体を探索するために、これまでに得られている非病原性菌株の起源染色体候補の構造解析をさらに進め、他の菌株の情報も含め総合的に検証し、起源染色体の構造を推定する。 本研究では、バラ科野生植物を中心に、3病原菌の野生宿主を探索することを目的としている。すでに、バラ科のボケとユスラウメ、モクレン科のユリノキにもリンゴ斑点落葉病菌感受性の系統が存在することを明らかにした。また、ユスラウメの自然病斑からリンゴ斑点落葉病菌の分離に成功した。さらに、ボケとユリノキの自然病斑からのリンゴ斑点落葉病菌の分離を試みる。 国内在来の遺伝資源として収集保存されているリンゴ属22系統(10県由来)とナシ属46系統(5県由来)のリンゴ斑点落葉病菌、ナシ黒斑病菌、イチゴ黒斑病菌に対する感受性を調査するために、各系統の穂木を採取し、それぞれ台木に接いで、接木苗を準備した。予備実験で、ナシ黒斑病菌とイチゴ黒斑病菌に感受性の系統が見いだされており、その詳細について解析する。 今年度、サクラ系統についても3病原菌に対する感受性検定を実施する予定であったが、コロナ禍で多くの系統を保存している機関への出張を控えたため、実施できなかった。次年度、状況が許せば、サクラとバラについても、3病原菌に感受性を示す系統の探索を実施したい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの感染拡大によって、大学への入構制限措置も取られ、アルバイト雇用の遅れ、中断があった。また、在来のリンゴ属とナシ属の野生系統、サクラ系統のサンプリングのための出張を見合わせた。関連学会がリモート開催となり、予定していた出張も中止となった。これらの経費、関連経費が使用できなかったため、次年度使用が生じた。次年度は、コロナウイルスの状況を見ながら、本年度計画していた研究あるいは代替え研究に使用する予定である。
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[Presentation] Alternaria alternataのACT毒素生合成遺伝子クラスターに座乗するACTT4の機能解析2021
Author(s)
有田佳司, 津木悠吾, 中島建登, 田中佐和, 増中 章, 宮本蓉子, 大谷耕平, 柘植尚志, 山本幹博, 望月 進, 市村和也, 五味剣二, 秋光和也
Organizer
日本植物病理学会
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[Presentation] ACT毒素生合成遺伝子クラスターに座乗しHMG-CoA synthaseをコードする推定ORFの機能解析2020
Author(s)
有田佳司, 津木悠吾, 田中佐和, 増中 章, 宮本蓉子, 大谷耕平, 柘植尚志, 山本幹博, 望月 進, 市村和也, 五味剣二, 秋光和也
Organizer
日本植物病理学会関西部会