2018 Fiscal Year Annual Research Report
スフィンゴ脂質代謝変化を伴う精神疾患病態メカニズムの分子基盤の解明
Project/Area Number |
18H05382
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
吉川 武男 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, チームリーダー (30249958)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
江崎 加代子 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, 基礎科学特別研究員 (20744874)
大西 哲生 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, 副チームリーダー (80373281)
豊島 学 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, 研究員 (90582750)
島本 知英 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, 基礎科学特別研究員 (90755117)
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Project Period (FY) |
2018-06-29 – 2021-03-31
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Keywords | 精神疾患 / 統合失調症 / スフィンゴ脂質 / 死後脳 |
Outline of Annual Research Achievements |
スフィンゴ脂質は、中枢神経系に豊富に含まれ、細胞増殖やアポトーシスなど様々な細胞機能の制御に関与している。統合失調症は人口の約1%という高頻度で発症し、複数の遺伝的要因や環境要因により発症すると考えられている。近年複数の臨床研究よりスフィンゴ脂質が精神疾患の疾患病理に関連する因子として報告されているが、病態メカニズムとスフィンゴ脂質の関連は未だ不明である。我々はスフィンゴ脂質が精神疾患の発症・進行などの病態に関与するメカニズムを明らかにし、精神疾患の治療および予防に向けた臨床応用のための知見を得ることを目指している。 我々はこれまでに疾患特異的・部位特異的に統合失調症患者死後脳の脳梁(白質)で一部のスフィンゴ脂質含量が低下していることを明らかにした。さらに統合失調症患者死後脳において、スフィンゴ脂質受容体の一部サブタイプの遺伝子発現は上昇していた。これらのことからどちらか一方が病態と関連しており、もう一方は代償反応であることが考えられた。そこで野生型マウスを用いたメタンフェタミン連続投与行動感作試験においてスフィンゴ脂質受容体アゴニストとアンタゴニストを投与し、精神疾患様行動異常への影響を解析した。その結果、スフィンゴ脂質受容体アゴニストは行動感作を有意に抑制し、一方でアンタゴニストは抑制作用を示さないことが明らかになった。このことからスフィンゴ脂質含量の低下が病態と関連し、受容体の発現上昇は代償反応であると考えられる。さらに、野生型マウスへのスフィンゴ脂質受容体アゴニスト長期投与は精神疾患様行動異常を引き起こさず、肝障害や腎障害の血中マーカーや血球数等の血液生化学検査でも副作用を示さないことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我々は統合失調症患者死後脳を用いた脂質分析および遺伝子解析の結果をもとに、統合失調症患者の精神疾患病態メカニズムにスフィンゴ脂質シグナル経路が関与しているという仮説を立てた。その仮説を検討するため、薬剤誘導性の精神疾患陽性症状のモデルマウスにスフィンゴ脂質受容体アゴニストおよびアンタゴニストを投与して精神疾患行動異常への影響を解析した。その結果、スフィンゴ脂質受容体アゴニストが有意に行動感作を抑制し、一方でアンタゴニストは抑制作用を示さないことが明らかになった。さらに、スフィンゴ脂質受容体アゴニストを投与した野生型マウスについて、高架式十字迷路試験等による不安様行動の評価、プレパルスインヒビション試験による感覚フィルター評価、Y迷路試験等による認知機能評価、3チャンバー試験による社会性行動評価を行ったが、精神疾患様行動異常を示す行動変化は見られなかった。また、肝障害や腎障害マーカー等の血液生化学検査、血球数検査においてもスフィンゴ脂質受容体アゴニストの投与による変化は観察されなかった。 このように昨年度は精神疾患の病態に関連するスフィンゴ脂質シグナル経路を明らかにし、マウスへの受容体リガンドの投与から治療薬の候補を明らかにした。治療薬候補リガンドについての副作用の有無についても検討を行い、リガンド投与は副作用を示さないという知見も得られた。研究は計画通りに進行中である。
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Strategy for Future Research Activity |
メタンフェタミン連続投与行動感作試験において、スフィンゴ脂質受容体アゴニストが行動感作を抑制することを明らかにした。一方で受容体アンタゴニストとして用いたリガンドはその作用を示さなかった。そこで、来年度は行動感作抑制作用にスフィンゴ脂質受容体の下流シグナルがどのように関与しているのか明らかにすることを目指す。また、多くの薬剤は脳組織の中でも特に脳梁でどのように機能するのか明らかになっていない。そこで、スフィンゴ脂質受容体リガンド投与による脳梁を含む脳組織の遺伝子発現変化について、次世代シーケンサーによるRNA-seq解析によって網羅的に解析を行う。さらに、脳梁に豊富なミエリンの形成に重要なオリゴデンドロサイトへの作用について検討するため、スフィンゴ脂質受容体リガンド投与がオリゴデンドロサイト関連遺伝子の発現に与える影響を解析する。
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