2020 Fiscal Year Research-status Report
Research on "Introspective Altruism" as the identity of people in the world, with a view to its implementation.
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20K20410
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
中谷 英明 龍谷大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (20140395)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
入澤 崇 龍谷大学, 文学部, 教授 (10223356)
末木 文美士 国際日本文化研究センター, 研究部, 名誉教授 (90114511)
佐伯 啓思 京都大学, こころの未来研究センター, 特任教授 (10131682)
新宮 一成 奈良大学, 社会学部, 教授 (20144404)
市川 裕 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 名誉教授 (20223084)
村井 俊哉 京都大学, 医学研究科, 教授 (30335286)
小野塚 知二 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 教授 (40194609)
伊東 貴之 国際日本文化研究センター, 研究部, 教授 (20251499)
池内 恵 東京大学, 先端科学技術研究センター, 教授 (40390702)
久松 英二 龍谷大学, 国際学部, 教授 (90257642)
清水 耕介 龍谷大学, 国際学部, 教授 (70310703)
嵩 満也 龍谷大学, 国際学部, 教授 (40280028)
熊谷 誠慈 京都大学, こころの未来研究センター, 准教授 (80614114)
山本 真也 京都大学, 高等研究院, 准教授 (40585767)
舟橋 健太 龍谷大学, 社会学部, 講師 (90510488)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 自省 / 利他 / 利己心 / 潜在意識 / 涅槃 / 自己否定 / 慈悲 / 安寧 |
Outline of Annual Research Achievements |
ブッダ自身が残した唯一の詩篇として特定された「八頌品」は、「自省利他」と要約される思想を述べる。本科研はこの新発見の思想の現代的意味を解明する。すなわち人間の本性としての「自省」と「利他」が十全に働いた時、人類社会とそれを構成する個人のあり方が最も安寧なものとなると推定し、この二原理が十全に働く条件を人文・社会・自然の諸学の視点から、理論と実践の両面において究明するものである。2020年度には、オンラインによる全体会議・個別打合せによって、次の諸点を確認した。 近年、情報科学(IT)とバイオテクノロジーは、世界の文化伝統や政治・経済・社会制度ばかりではなく、人間の心身そのものを大きく変容させようとしている。アルゴリズムが人間の心を手繰る「デジタル支配」が懸念され、生命科学が遺伝子組み換え等によって人間の身体を変容させることも予想される。そればかりかバーチャルリアリティ技術の発達はAIの学習に必要な身体経験を再現できるようになると予測され、カーツワイルの言うシンギュラリティの到来が現実味を帯びつつある。 このような大変動の渦中にあって、17世紀以来の科学革命、産業革命が育んだ民主主義、自由主義という二価値は揺らいでいる。それは、それら二価値が現在拠って立つ「自己利益を図る存在」という(主流派経済学の)人間観が無限の快楽追及を是認するがゆえに、際限なく利益を追求する資本主義と無慈悲な抗争とが結果しているからである。 本研究は、世界を俯瞰してこの事実を明確に認識し、「利己的個人」に代わる「自省利他的個人」という新しいアイデンティティを全人類のものとする手順を考察している。利己的快楽の原理を、利他的歓びの原理へと転換する「自省利他」こそ、人類の本性に沿ったものであり、その実践は深い歓びをもたらすのであることを次第に明確にしつつある。その成果は多数の論文、講演、図書として公開した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年7月から開始した本科研は、早速、研究参画者16名のメーリングリストを立ち上げ、同年8月には第1回研究会を龍谷大学で開催して共同研究を開始した。研究代表者中谷は分担者と研究打合せを行う一方、同年11月の台湾仏光山大学校長論壇における招聘講演、龍谷大学創立380周年記念世界宗教フォーラム「自省利他の社会を求めて」のファシリテータの遂行、同12月の駒澤大学成道会法要記念講演や、龍谷大学顕真アワー講演を行うなど、「自省利他」思想の周知に努めてきた。しかし2020年3月予定の本科研主催国際シンポジウムは、新型コロナ蔓延によって中止を余儀なくされた。 2020年度も新型コロナが収束せず、Zoomによる研究打合せを実施した。9月にはZoomの有料プランに加入して長時間使用を可能とし、10月6日と16日の2回にわたり、全体研究会をオンライン開催した。16名が参加する本科研ではオンラインの方が対面より参加者の日程調整が容易であり、少人数による個別の研究打合わせも容易に実施できる利点もあり、対面での共同研究に準ずる成果を上げることができた。しかし、2021年3月の国際シンポジウム開催は昨年同様見送りを余儀なくされたため、2021年度末のオンライン開催を準備中である。他方、研究分担者がインド、タイなどで行う予定であった実地調査は実施できず、海外の国際学会の多くも中止となった。 コロナ禍によって加速された世界の大変容は、個々の人々の確固とした新しい行動原理と、その新原理に基づく新しい政治・経済・社会システムの構築の必要性を益々明確にしており、「自省利他」という新しいアイデンティティを日本と世界に知らしめるという本科研の重要性をより明確に再確認しつつ、主として理論的研究を進め、成果を論文、講演、図書として公開した。
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Strategy for Future Research Activity |
近代物理学は単なる素材として自然をとらえ、その力を利用することに成功した。これが科学技術である。科学技術は自然の定量可能部分を抽出し、それを組み合わせて人間生活の向上に目覚ましく貢献してきた。現代の科学技術は市場の支持という基準によって評価される。そこから結果したものが、無限の経済成長を求める資本主義と、それを支える技術革新主義である。 人を疾病や飢餓から救う医療や農業等の技術、その他の生産、運輸、情報、軍事など、あらゆる技術はそれぞれ有用性、すなわち人の快感充足に資する。問題は市場主義が人の快感の質も量も問うことがないことにある。快楽の無制限の解放は、限りある地球資源を枯渇させるばかりか、微妙に均衡が保たれている地球環境を狂わせる。そもそも刹那の快楽は深い満足感とは異なるものである。いかなる環世界(自然)とその中での生き方が人にとって最もふさわしいのか、この問いを忘却したことが、近現代の歪を生んでいる。 この問いに答えるためには、人類の進化・諸文明の精神史と、現代諸地域の現況、人文・社会・自然にわたる諸科学の知見を総合して人間を洞察する「総合人間学」の場を構築する必要がある。それが「自省」である。自然を素材として扱うことを止め、自然の一部として生きることを選択するならば、すべての存在に対する思いやりの心、「利他」の心が養われる。本科研は「利他」の心を持って「自省」する「自省利他」というアイデンティティ育成の可能性を探り、「自省利他」の視点から未来世界の民主主義、資本主義等の諸システムあるいは日本の国の在り方を構想することが目標である。 本年度は、この目標を達するため、研究会、ホームページの作成、国際シンポジウム開催、書籍刊行の準備を行う。
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Causes of Carryover |
新型コロナによって、1)タイ、インド等における実地調査、2)海外の学会における発表、ならびに、3)国際シンポジウムの開催、が不可能となったことによって、次年度使用額が生じた。 本年度はオンラインで国際シンポジウムを開催する予定である。 またホームページを創設し、研究分担者による討議の様子の動画をそこに掲載して、「自省利他」を一歩ずつ構築する過程を広く世に知られるようにする予定である。
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[Book] 現代社会の仏教2020
Author(s)
船山 徹、蓑輪 顕量、熊谷 誠慈、室寺 義仁
Total Pages
256
Publisher
臨川書店
ISBN
4653045755
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