2021 Fiscal Year Research-status Report
科学的根拠に基づく健康政策の実現に向けて-文理融合によるビッグデータの利活用
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20K20418
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
野口 晴子 早稲田大学, 政治経済学術院, 教授 (90329318)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川村 顕 神奈川県立保健福祉大学, ヘルスイノベーション研究科, 教授 (10422198)
阿波谷 敏英 高知大学, 教育研究部医療学系医学教育部門, その他(教授相当) (10467863)
花岡 智恵 東洋大学, 経済学部, 准教授 (30536032)
朝日 透 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (80222595)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 健康政策研究 / 因果推論に裏付けられた科学的根拠 / 文理融合によるビッグデータの利 / 価格政策と数量政策 / 定量分析と定性分析との融合 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、COVID-19感染拡大による進捗の遅れを取り戻すべく、データ・エンジニアリング領域から研究協力者を2名増員し、今年度5月に入手が完了したNDBデータの整備を開始した。具体的には、現在、NDB上にある包括医療費支払制度(以下、DPC/PDPS)レセプトを基に、「教師あり機械学習」を行っているところである。 今年度は、別途収集・許諾を得た海外のデータ、及び、年度初めに入手出来た『国民生活基礎調査』を用いて3つの研究を行った。まず、医療保険制度の持続可能性の観点から、どの先進国でも課題となっている保険収載の在り方と治療成果との関連性に係る2つの研究を行った。1つ目は、米国の抗がん剤治療への患者アクセスの格差を是正するanticancer parity lawsの導入の死亡率に対する効果を、がんの部位別に推定した最初の研究(Shen et al. “Impacts of anticancer drug parity laws on mortality rates”)、2つ目は、カナダの禁煙補助剤に対する医療保険適用拡張の患者の健康リスク行動に与えた効果に関する実証研究(Shen et al. “The effect of coverage of smoking-cessation aids on tobacco use: Evidence from Canada”)である。『国民生活基礎調査』(2013・2016年)では、1966年・「丙午」生まれの大学進学率が26。5%と過去最高になった現象を「自然実験」と見做し、学歴の高低と健康リスク行動との関連性に係る因果推論を行った(Shen et al. “Does College Education Make Us Act Healthier? Evidence from a Japanese Superstition”)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、2020年度におけるCOVID-19感染拡大の影響により、国内データの入手が大幅に遅れた分、米国やカナダ等海外のデータを用いた研究を中心に行い、医療保険制度の持続可能性の観点から、どの先進国でも課題となっている保険収載の在り方と治療成果との関連性に係る2つの研究を行い、国際的な専門誌に掲載することが出来た。加えて、入手されたばかりの国内データの整備・解析に着手し、現時点で公刊には至っていないものの、ワーキング/ディスカッション・ペーパーとして公開され、専門誌への投稿の準備段階にある。具体的には、前段で紹介した学歴と健康リスク行動、及び、婚姻・出生との関連性に係る因果推論、1990年代における東京都と政令指定都市を中心とした乳幼児医療費助成制度の導入効果に対する定量的検証、2011年東日本大震災に伴う福島原発事故の母親に対する心的ストレスが出生時体重と出生後の子どもの健康に与えた影響に対する実証分析等である。プロジェクト全体の生産性が向上した背景として、入手した国内データについて、データ・エンジニアリング領域から新たに研究協力者を2名増員することにより、NDBや『介護給付費実態調査』等、医療及び介護レセプトに係る大規模行政管理情報の整備に着手することが出来たことが要因の1としてあげられる。個別テーマに応じたレコードを、PostgreSQL上でSQL言語により効率的に抽出・加工する複数のプログラムをPythonによって統合し、包括的な管理が可能なシステムを構築出来たことで、今後のプロジェクト運営を更に効率化することが期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度においては、第1に、NDBの主傷病を特定するために、DPC/PDPS制度以外の入院レセプトと外来レセプトについて、ランダムフォレストや深層学習の手法を用い、各モデルの予測精度や解釈性を比較検証した上で、予測モデルを決定する。予測モデル決定後、外来レセプトについては、第1段階で入院と時系列で接合可能な患者のみを対象に、第2段階で「主傷病」を特定できた患者の情報に基づき、全外来患者の「主傷病」の特定を試みる。第2に、上記で整備したNDBと総務省が公表している地域別集計データ(e-Rad)を、地域識別コードを用いて突合し、各地域の社会経済的属性(socio-economic status:以下、SES)を統制した上で、2014 年度より施行された医療に対する自己負担率の変更による患者の窓口負担額の変化が、医療需要に与えた影響(価格弾力性)を推計する。更に、同様の分析を地域・傷病別に行うことにより、地域・傷病ごとの医療ニーズに対する検証を行う。第3に、現在、ネットワーク分析を『介護給付費実態調査』に応用することで特定化しつつある介護サービスミックスから、要介護認定期間や要介護度をアウトカムとして、深層学習等を用いた予測値を求め、それと実際のサービス提供との差異について経済学的に考察する。最後に、診療報酬改定に携わる中央社会保険医療協議会に着目し、その議事録を基に、tf-idf(term frequency-inverse document frequency)などを用いた形態素の重要度を測定する。その上で、主成分分析やクラスター分析により発言の距離を測定する、あるいは、support vector machine などの機械学習の手法を適宜用い、テーマ及びサブテーマの変遷、各ステークホルダーの発言のポジショニング、及び、その変遷を定量化する。
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Causes of Carryover |
第1に、事前相談・内諾を経て、令和元年11月に解析を開始する予定で、複数の管轄省庁に対し介護給付費実態調査等計16種類のデータ申請を行ったが、COVID19感染拡大、及び、当該省庁に対する申請が殺到し混雑していたため、2020年度に内諾が得られたものの、データの到着が大幅に遅れてた。研究遂行上、実証的手法による医療・介護の需給両面での政策効果を推定するためには本データの取得・解析は必須であり、研究期間を延長する必要が生じた。第2に、報告予定であった複数の学会がオンライン開催になったため、海外旅費拠出の必要がなくなった。今年度は最終年度のため、解析の遅れを取り戻すために、昨年度増員したデータ・エンジニアリング領域の研究協力者を継続雇用する予定である。
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Remarks |
http://www.waseda.jp/prj-wishproject/index.html http://www.waseda.jp/prj-wishproject/en/index.html
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Research Products
(6 results)