2020 Fiscal Year Research-status Report
「大学入試学」基盤形成への挑戦――真正な評価と実施可能性の両立に向けて――
Project/Area Number |
20K20421
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
倉元 直樹 東北大学, 高度教養教育・学生支援機構, 教授 (60236172)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮本 友弘 東北大学, 高度教養教育・学生支援機構, 教授 (90280552)
久保 沙織 東北大学, 高度教養教育・学生支援機構, 准教授 (70631943)
田中 光晴 国立教育政策研究所, 国際研究・協力部, フェロー (00583155)
南 紅玉 東北大学, 高度教養教育・学生支援機構, 助教 (60811271)
小泉 利恵 順天堂大学, 医学部, 准教授 (70433571)
安成 英樹 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 教授 (60239770)
西郡 大 佐賀大学, アドミッションセンター, 教授 (30542328)
銀島 文 国立教育政策研究所, 教育課程研究センター基礎研究部, 総合研究官 (30293327)
伊藤 博美 東北大学, 高度教養教育・学生支援機構, 特任教授 (10883423)
内田 照久 独立行政法人大学入試センター, 研究開発部, 教授 (10280538)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 大学入試学 / 新型コロナウイルス感染症 / 真正な評価 / 実施可能性 / 国際比較 / オンライン入試 / 識別性能 / 学力水準 |
Outline of Annual Research Achievements |
大学入学者選抜に抜本的な改革が図られる中で,高大接続改革の導入がとん挫した。さらに,新型コロナウイルス感染症(以後,COVID-19と表記する)が蔓延し,令和3(2021)年度入試は特別な対応が迫られた。未曽有の困難が重なった中,受験者や実施者,全ての関係者の過剰な負担によって現実の大学入学者選抜が実施された。従来,わが国の大学入試改革では常に多様化が追求され,近年は評価の真正性が志向されてきた。実際に実行可能なことは何か,大学入試で真に重要なことは何かを追求しなければ現場が崩壊しかねない事態に直面している。本研究は従来からの「労力注入型」の発想を転換し,真正性と同時に効率性,信頼性,公平性を追求する大学入学者選抜方法の確立を模索している。 2年目となる令和2(2020)年度は,初年度に東北大学大学入試研究シリーズ第1巻「『大学入試学』の誕生」によって着手した「大学入試学(Admission Studies)」の研究を進化させ、展開していく予定であった。第3巻「変革期の大学入試」を上梓した一方で,COVID-19の影響で研究の方向性が一変した。海外調査に関わる活動が制約を受けたが,前年度に当たる1月に行った中国調査の成果を基に東アジア4カ国の入試改革に関する研究成果を上げた。COVID-19対策の国際比較,オンライン入試の可能性に関する研究は当初計画したものではなかったが,「大学入試学」の構想の中でも「挑戦型選抜方法」に関する実践研究に位置付けられる。「堅実型選抜方法」については,一般入試個別試験における英語の設問形式の識別性能や特定大学における個別試験前期日程の受験者の学力水準の変化など,地道な研究成果を積み上げることができた。 当初の想定とはやや異なる経過をたどっているが,厳しい研究環境の下,研究成果としては期待以上の水準を上げたと評価できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
昨年度構築した研究体制の中で,ウェブサイトが大きな効力を発揮している。「研究報告」に掲載出来た成果は,初年度こそ7月からという研究期間の短さもあって本研究を機に発刊した東北大学大学入試研究シリーズ第1巻「『大学入試学』の誕生」のみ(参考資料は6本)であったが,2年度目に当たる今年度には12本の本研究の成果と参考資料8本を掲載することができた。特に,間髪を入れずにシリーズ第3巻「変革期の大学入試」の上梓が叶ったことは,活発な研究活動が行えている証左と考えている。したがって,研究成果から見た全体としての進捗状況は「当初の計画以上に進展している」に該当すると判断している。 一方,研究活動は,COVID-19の蔓延により,その状況を意識した内容に軌道修正せざるを得ない部分がある。最も障害となるのは,海外調査や成果発表に対する制約である。初年度は中国調査を実施して,その成果に基づく研究を本年度で発表することができたが,新たな調査を行うことはできなかった。COVID-19の収束状況にもよるが,残り2年間の研究期間でどの程度の調査が可能か,改めて検討しなければならない。また,研究会の活動も対面で行うことができず,3月にオンラインで実施することとなった。 一方,研究課題としては,COVID-19の大学入試に与える影響が視野に入り,広がりを見せるようになってきた。正しく「大学入試学(Admission Studies)」が「実践の学」としての可能性を試される舞台である。残り2年間の研究期間で,COVID-19の要素を加えた中での実現可能な大学入学者選抜を追求することが,挑戦的研究としての本研究に与えられた役割と言えるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
まず,高大接続改革が大幅に見直されつつある状況と,COVID-19が急に発生して一気に世界中に蔓延して人々の行動様式に大きな変容が迫られる事態が同時に起こったという,わが国の大学入学者選抜を取り巻く環境の急激かつ大きな変化に対応して,本研究も研究組織の組み直しを検討する時期が来たと考える。「堅実型選抜方法」と「挑戦的選抜方法」の2領域で研究を遂行する計画には変わりないが,文部科学省に設けられた「大学入試のあり方に関する検討会議」で高大接続改革に対する大幅な見直しが進んでいる中,高大接続改革に対応する形で設けられた「書類審査」「面接試験」「記述論述型問題」「4技能評価」「CBT」「新評価方式」といった選抜方法に基づく班のテーマをこのまま維持すべきか否かについては検討の余地がある。むしろ,新たに出現したCOVID-19への対応と急速に進む教育のオンライン化を織り込んで,班ごとのテーマ変更を検討することが現実的な対応と言えるかもしれない。 今後,COVID-19の急速な改善が見込めない場合には,研究打合せ,海外調査を含む研究遂行方法を大幅に見直すこととする。すでに令和2(2020)年度から,研究打合せにはオンラインミーティングを活用している。令和3(2021)年度もその方針を踏襲する。最終年度となる令和4(2022)年度の研究遂行方針は,その時点におけるCOVID-19の改善状況に鑑みて改めて調整を行うこととする。従来から続けてきたウェブサイトにおける情報発信は,さらに強化する。 なお,本年度から挑戦的研究(開拓)が基金化されたことは本研究にとって幸いであった。海外調査を計画していた研究分担者の中には,研究費の大半を次年度以降に繰越した者もいた。いずれにせよ,後半の2年間に使用できる研究費が充実したことで,よりダイナミックな研究展開が可能になったと考えている。
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Causes of Carryover |
令和2(2020)年2月頃より,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延が世界的に起こり,人の移動が厳しく制限された。本研究においても,対面による研究打合せが不可能となった。さらに,海外調査として,本年度から順次,米国におけるコンピュータテスト(CBT)の開発状況や運用の実態,フィンランドにおける大学入学者選抜試験(Matriculation Examination)のCBT化の実情,フランスのバカロレア,韓国における「学校生活記録簿総合選考」の下での書類審査の状況,台湾の多面的評価に基づく入試改革の現状等について現地視察の予定であったが,ことごとく実施可能な環境が得られなかった。さらに,新しく開発予定であったCBTのモニター調査等の計画も,フィールドとなる学校現場が長期間に亘って休校になるなど,大きな影響を受けることとなった。 現在のところ,令和3(2021)年度以降の劇的な感染状況の改善を期待し,研究実施計画を大きく変更はしない予定である。ただし,研究計画そのものはCOVID-19の蔓延という新たな環境要因の下での大学入学者選抜という要素を加えて,より広い関心を持って進めることになると考えている。
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Remarks |
本科研費研究のために開設したウェブサイト。
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Research Products
(14 results)