2022 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K20459
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
吉村 崇 名古屋大学, 生命農学研究科(WPI), 教授 (40291413)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 概年時計 / メダカ |
Outline of Annual Research Achievements |
生物の体内には数ミリ秒から1日、1か月、1年単位まで、様々な周期のリズムを刻む内因性の体内時計が存在する。その中でも約1日周期のリズムを刻む「概日時計」や、約2時間周期のリズムを刻み体節の形成に関与する「分節時計」については、過去数十年の研究によって大幅に理解が進んだ。とりわけ、概日時計の分子機構の解明に対してはノーベル賞も授与されている。 一方、繁殖活動や渡り、冬眠などのように、動物の様々な営みには季節のリズムが存在する。鳥類や哺乳類、あるいは昆虫など、いくつかの動物種においては、約1年の内因性のリズムを刻む概年時計が存在することが示されている。人類は有史以来、生物の示す一年周期のリズム現象に魅了されてきたが、概年時計の研究には膨大な時間がかかるため、ほとんど手付かずで極めて挑戦的なテーマである。 本研究ではこの謎を解明するために、屋外の自然条件下で飼育したメダカから視床下部・下垂体を2週間に一度、2年間にわたって採材し、得られた2年間の時系列試料についてRNA-Seq解析を行うことで、年周リズムを刻む季節変動遺伝子を同定した。また環境因子が変動しない実験室内の恒常条件下においてもメダカの産卵リズムが概年リズムを示し、内因性の概年時計を持つことを明らかにした。さらに恒常条件下においても視床下部・下垂体の時系列試料を毎月採取してRNA-seq解析を行った結果、自然条件下、恒常条件下の両方で共通して1年のリズムを刻む「概年遺伝子」を同定することに成功している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
メダカに約1年の内因性の概年時計が存在するか否かは証明されていなかったが、14時間明期10時間暗期の長日条件、12時間明期12時間暗期の春分条件、10時間明期14時間暗期の短日条件のそれぞれにおいて、内因性の概年時計が存在することを明らかにした。1年のリズムを刻む分子基盤を明らかにするために、まず、屋外の自然条件下で飼育したメダカから視床下部・下垂体を2週間に一度、2年間にわたって採材し、得られた2年間の時系列試料についてRNA-Seq解析を行い、年周リズムを刻む季節変動遺伝子を同定した。また、恒常条件下で飼育したメダカから1か月ごとに採材し、RNA-seq解析を実施し、自然条件、恒常条件の両方でリズムを刻む「概年遺伝子」を同定することに成功している。さらに、それぞれの季節に発現のピークを迎える遺伝子群の上流に共通して存在する転写因子結合モチーフを同定するとともに、それらのモチーフに結合しうる転写因子の候補を抽出している。また、一細胞RNA-seq解析、空間的トランスクリプトーム解析を完了しており、季節変動遺伝子の遺伝子ネットワークの解析を行っており、順調に研究が展開している。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画通りに研究が進んでいるため、概年時計の分子機構の解明にむけて、計画されていた研究を推進していくとともに論文化をはかる。
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Causes of Carryover |
年度をまたぐ外国出張があり、出張経費が不足しないように配慮した。また年度末に採材したサンプルの一部の品質が不十分であったので、年度をまたいで採材し直し、十分な品質のサンプルを得ることができたので、少し後ろ倒しにした実験を速やかに遂行するため、翌年度分として請求した助成金と合わせて、予定通り執行できる。
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