2020 Fiscal Year Research-status Report
医療アーカイブズの構築と利用環境の整備に関する先導的研究―九州大学診療録を材料に
Project/Area Number |
20K20502
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
折田 悦郎 九州大学, 大学文書館, 協力研究員 (10177305)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鬼塚 俊明 九州大学, 医学研究院, 准教授 (00398059)
藤岡 健太郎 九州大学, 大学文書館, 教授 (00423575)
廣川 和花 専修大学, 文学部, 准教授 (10513096)
中村 江里 広島大学, 人間社会科学研究科(総), 准教授 (20773451)
久保田 明子 広島大学, 原爆放射線医科学研究所, 助教 (40767589)
黒木 俊秀 九州大学, 人間環境学研究院, 教授 (60215093)
本村 啓介 九州大学, 医学研究院, 共同研究員 (60432944)
後藤 基行 立命館大学, 先端総合学術研究科, 講師 (70722396)
赤司 友徳 九州大学, 大学文書館, 准教授 (70774587)
森本 祥子 東京大学, 文書館, 准教授 (80342939)
徳安 祐子 九州大学, 医学研究院, 学術研究員 (60822757)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | 医療アーカイブズ / 医療記録 / 診療録 / ELSI / 九州大学 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)九州大学(以下、九大)精神科神経科診療録等を整理し、仮目録を作成した。また作業を行う中で、診療録の経年劣化、カビや虫損等の被害が多数発見されたため、資料保存スペース窓への紫外線カットフィルムの貼り付け、業務用除湿機二台の設置、保存スペースの燻蒸等の環境整備も実施した。 (2)診療録管理および公開の状況に関する調査を以下の通り実施した。COVID-19流行のため、当初各機関での実地調査を行う予定を変更し、下記のオンライン調査を実施し、情報収集およびそのデータ整理を行った。①国内外の公文書館、博物館、医療機関等が所蔵する医療記録の取り扱いに関する規則(有無を含めて)の調査、②わが国の行政、医療機関・研究所、医学関係研究団体等における医療記録の取り扱いに関する議論の調査、③アメリカの公文書館・博物館・大学等における医療記録の取り扱いに関する規則の調査。以上の調査を踏まえ、国内公文書館を対象とした調査票案を作成した。 (3)全体の研究集会を3回実施した。第1回(令和2年9月)は科研費交付に先立って実施し、研究プロジェクトおよび今後の方向性を確認した。第2回(令和3年1月)は、後藤基行が「倫理的・法制度的・社会的課題(ELSI)の観点からみた医療アーカイブズ―医学研究にとっての倫理審査の位置づけと共に―」、本村啓介が「執着気質とその時代」をそれぞれ報告した。第3回(同年3月)は、赤司友徳が「診療記録・情報の管理・取扱いをめぐる議論およびガイドラインの策定―1990年代以降を中心に」、藤本大士(研究協力者)が「日本・海外における医療アーカイブズの整備・公開状況についての調査」をそれぞれ報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
(1)九大精神科神経科診療録などの医療記録約2,100点を整理し、仮目録を作成した。当初計画通り、この作業を行いつつ、診療録を保管する部屋の環境整備も行った。一方で、COVID-19流行により、研究分担者が九大大学文書館に来館して診療録を選定する作業を行えず、電子化の作業を延期せざるを得なかった。なお診療録およびその仮目録は、適切な公開の道筋が確立していないことや個人情報保護等の観点から、本科研メンバーに限り、九大大学文書館内で閲覧できることとしている。 (2)令和2年度当初計画では、九大法令・制度調査班は九州大学病院内の関係各部局への現状調査、アーカイブズ調査班は国内の主要大学病院および大学文書館、海外の医療記録を保有する機関への調査を予定していたが、COVID-19流行により断念せざるを得なかった。現状で医療機関にさらなる負担をかけることを避け、以下の通りオンラインでの調査が可能な情報収集とその分析に注力した。すなわち国内外の医療機関、大学等における診療録の公開や規則の状況のほか、厚生労働省および国立病院機構や民間病院等の文書管理に関する規則、公文書管理法制定時における医療記録に関する議論、診療録管理に関する診療録情報管理士らの議論等の調査である。 (3)研究集会では、このような調査に基づく報告を行いつつ、アーキビスト、医師、医学史研究者からなる研究メンバーが診療録の保存、公開、活用に関するルール策定のための議論を進めた。研究分担者の後藤からELSI理念の報告がなされたことを契機として、診療録の公開に関するルール作りにおいて多様なステークホルダーによる議論を踏まえることが重要であるとの共通認識が形成された。わが国が推進する学術情報のオープン化に鑑み、本研究プロジェクトがかかる共通認識を獲得したことは、同様の問題を抱える他機関の今後の議論に重要な示唆を与えるものと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
本プロジェクトは、九大法令・制度調査班、アーカイブズ調査班、診療録電子化班、研究・評価班から構成されている。昨年度と同様、今後も各班の活動の自立性や方法論を重視しながら、2,3ヶ月に一度の研究会や適宜班の会合を開催し、研究・作業状況の報告を行い、情報共有やよりよい意見集約に努める。各班は以下のように研究を遂行する予定である。 (1)令和2年度に九州病院総務課における診療録管理担当者との意見交換を開始した。今年度は医療アーカイブズに関わる文書のファイル管理簿の作成や文書管理の状況について具体的な聞き取りを行い、また各文書の保存年限や移管のあり方等について意見交換を行う。これをもとに、収集する文書の評価選別方法や審査基準の素案作りに取りかかる。 (2)令和2年度に作成した国内公文書館へ医療アーカイブズに関する調査票を発送し、その分析を行う。続いて、調査をもとに、医療アーカイブズを保有しているか、あるいは保有を検討している機関を洗い出し、直接調査に赴くか、電話や遠隔会議での間接的な調査を行うか、然るべき対応を行う。 (3)昨年度はCOVID-19の流行のため、研究班に所属する学外の分担者が九州大学に来学できない状況が続いた。それによって遅延していた診療録の電子化を流行状況に留意しながら完了させる。また、その電子データの管理、個人情報のマスキングや閲覧方法等も検討する。 (4)研究・評価班は九大診療録を用いた試験的研究を行い、歴史資料としての価値や利活用について検討する。
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Causes of Carryover |
COVID-19の流行により、医学資料や医療記録等を保有する国内外の公文書館や大学文書館などでの実地調査ができなかった。また学外の研究分担者が出張して、九州大学大学文書館に保管されている診療録を閲覧することが困難であったため、診療録の電子化作業を実行できなかった。今年度は遠隔会議システム等を用いるなど工夫をしながら電子化を行いたい。よって昨年度に実施する予定であった実地調査および診療録の電子化の費用を今年度に繰り越し、使用する予定である。
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Research Products
(14 results)
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[Book] 人口と健康の世界史2020
Author(s)
秋田茂・脇村孝平・廣川和花ほか
Total Pages
392頁(廣川和花担当219-241頁)
Publisher
ミネルヴァ書房
ISBN
9784623090143