2020 Fiscal Year Research-status Report
緑青からの炭素抽出法の開発と,青銅器に対して炭素14年代測定法がもつ有効性の実証
Project/Area Number |
20K20718
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
小田 寛貴 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 助教 (30293690)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山田 哲也 公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (80261212)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | 青銅器 / 緑青 / 炭素14年代測定 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,緑青からの炭素抽出法を開発することを第一の目的とし,その上で従来不可能とされてきた青銅器の緑青を直接試料とした炭素14年代測定法の有効性を実証することを第二の目的とするものである. 本年度は,まず真空中における緑青からのCO2発生法の開発を行った.加熱により,緑青の主体であるCuCO3・Cu(OH)2は,融点に達する以前に,まずH2Oを,次いでCO2を放出し分解する.しかし,その分解温度に関する報文は,地質・鉱物分野からのものであるため,時間・圧力等の反応条件や大気中・He気流中などの反応雰囲気が統一されておらず,個別的・経験的な報告しかない.そこで,緑青14C年代測定法の開発を目的とする本研究では,「短時間の反応で,外界からの炭素混入の影響なく,緑青からCO2を放出する」という三条件を満たす分解温度を求めた.その結果,真空中において200~250℃,1時間以下の加熱により,CO2を得ることが可能であるとの一応の結果を得た. ここで一応と付したのは,考古資料の測定例が増加する中で,250℃以下の加熱ではCO2放出が極めて低収率となる試料が確認されたためである.一方,300℃以上では,より高収率となるものの,外来炭素汚染の影響を受ける可能性が示された.考古資料・歴史史料の分析法には,高収率・低汚染での試料抽出は必須である.そのため,さらにこの加熱分解法の開発を推進する必要がある. この汚染は緑青に付着する土壌有機物が加熱によって分解したことに由来すると判断できる.そこで,常温の真空中において,緑青をリン酸と反応させCO2を生成する手法の開発についても遂行した.しかし,後世の炭素が混入していること,同法ではその分離が困難であることを示す結果であった.定性的な元素分析の結果ではあるがCaの存在が確認されたことから,後世の炭素を固定したCaCO3の影響と考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの研究結果から,緑青の炭素14年代測定法について以下の三点が示された.すなわち,(1)リン酸分解法は,後世の炭素汚染を伴うこと,(2)300℃以上の加熱分解法では,外来炭素の影響を受ける事例があること,(3)200~250℃,1時間以下の加熱分解法では,低収率であるものの,外来炭素汚染が少ないことである. 本研究の目的は,緑青からの炭素抽出法を開発すること,および,同層出土木炭等ではなく,青銅器に生じた緑青を試料とする炭素14年代測定法の有効性を実証することの二点にある.本年度は,緑青から短時間で低外来汚染のCO2を,収率は低いながらも抽出することが可能であることを示した.この結果は,緑青からの炭素抽出法開発を第一目的とする本研究の進展であるといえる.すなわち,十分な緑青試料を採取できる青銅器資料に関しては,炭素14年代測定法による考古年代推定が可能であることを示しているのである. 貝などの炭素14濃度測定に利用されるリン酸分解法は,有機物の影響を受けにくいため,緑青にも利用できる可能性がある.しかし,貝試料と同様の方法では,外来炭素の影響が無視できないことが示された.ただし,合成した塩基性炭酸銅および鉱物の孔雀石にはこうした影響がみられず,考古資料についてのみ確認できる.その際,考古学的年代よりも有意に新しい炭素14年代であること,Caの存在が示されていることを併せ判断すると,埋蔵環境中のH2Oに溶解したCO2がCaCO3として固定されたものと考えられる. 上記二種類の調製法開発では,主に合成した塩基性炭酸銅および孔雀石を利用した.一方で,実際の青銅表面に発生した緑青についての知見を得るため,考古資料についての測定も遂行した.こうした測定例を蓄積することで,緑青を直接試料とした炭素14年代測定法の有効性を実証するという本研究第二目的の達成に向けても推進した.
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Strategy for Future Research Activity |
リン酸分解法の問題点に対して,ある種の化合物の利用により解決できるという新たな着想を得た.しかし,この化合物の取り扱いに長けた分担者参入の必要性,および,代表者の所属機関である名古屋大学「宇宙・地球・環境」研究所年代部内における実験環境悪化の現状を考慮すると,実験データを伴う成果を上げることは困難である.そこで,同手法については原理・理論の構築を目指し,まずは加熱分解法に重点を置き緑青調製法を開発する方針を立てた.試薬瓶中の薬品と異なり,考古資料は個別具体的なものであるため,CO2生成が低収率となる例が散見される.この点が,来年度以降の本研究推進において解消すべき課題である. 来年度は,二つの方向性をもってCO2抽出法の開発を推進する.一つは,現在の反応系と異なる条件下において200℃以下の低温加熱ないし加温により,外来汚染を抑えつつも高収率となるCO2抽出法の開発である.詳述は避けるが,その実現の可能性が予備実験の結果から得られている.またもう一つは,外来炭素汚染の影響が低いものの抽出収率が低い現在の200℃以下の加熱分解法に対応する手法の開発である.測定に用いる黒鉛の合成に必要な炭素量を確保できない資料について,従来の必要量以下での極微量炭素14年代測定を実施する.同手法は近年活用が開始されたものであるため,歴史学的年代が既知である資料に対して,従来法の結果と比較することで,考古資料・歴史史料に適用した際の正確度の評価を行う. 本研究課題の第二の目的である「青銅器の緑青を直接試料とした炭素14年代測定法の有効性の実証」についても推進する.すなわち,弥生から江戸時代までの,歴史学的な年代が判明している考古資料より緑青を採取し,新たに開発する低温加熱分解法により抽出したCO2,および従来の加熱分解法により抽出した極微量CO2についての炭素14年代測定を実施する.
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Causes of Carryover |
R2年度に役務提供を計画していたが,年度末の繁忙期に入り高額であったため,必要最低限の試料数のみについて実施し,他の試料については,より低金額の閑散期であるR3年度前半期での測定へ変更した.新型コロナウィルスの蔓延に伴い,申請時に計画していた学会への出張および資料採取のための野外調査を中止した.リン酸分解法が外来炭素汚染の影響を受ける手法であることが判明し,加熱分解法に重点を置き研究を遂行した.これらの理由に伴い,次年度使用額が生じた. 直接経費の次年度使用額分は,R3年度前半に上記の役務提供に使用する.新型コロナウィルスの蔓延の状況にもよるが,R3年度は資料採取・野外調査および国内外の学会への参加を計画している.そのため,R3年度の研究費は当初の計画通りに使用する予定である.
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