2021 Fiscal Year Research-status Report
ゾミア的空間の地球史にむけたプレリサーチ:非人間中心主義的転回への人類学的応答
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20K20728
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
内藤 直樹 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(社会総合科学域), 准教授 (70467421)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
片岡 樹 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 教授 (10513517)
岩佐 光広 高知大学, 教育研究部人文社会科学系人文社会科学部門, 准教授 (20549670)
石川 登 京都大学, 東南アジア地域研究研究所, 教授 (50273503)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | 変動帯 / 地形・地質 / ヴァナキュラーなランドスケープデザイン / 四国山地 / アナーキズム / 市場 / 景観デザイン / 環境史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、地球上のさまざまな地域における領域国家への包摂/排除に関わる動きを、多様な人間と非人間による意図的・非意図的な相互作用よる「世界制作プロジェクト(Tsing 2015=2019)」の一種として捉え、そのダイナミクスを比較考察すること(「ゾミア的空間の地球史」)にむけた視点と方法論を構築することにある。そのために、世界農業遺産サイトの農業システムが形成された過程に焦点をあて、国家・市場・環境の連関に関する比較検討をおこなう。 今年度もコロナウィルス感染症の世界的流行のために、国外での現地調査を遂行することは困難だった。だが、国内の世界農業遺産サイト等を対象にした現地調査やプロジェクトを実施した。具体的には、日本の前近代におけるプランテーションおよび流通と世界農業遺産の関係、世界農業遺産サイトの保全プロジェクト、地質や鉱工業と文化の関係、日本からみたゾミア論の批判的再検討等である。また、近世以降の日本における国家や市場の周縁地域における流通とランドスケープの関わりについて検討するために、四国山地を対象にした造園学、土木工学、景観生態学、草地生態学、微生物学、発酵学、地質学、フードスタディ、歴史学者と協働して『ソミアの地球環境学:四国山地の地質・生態・歴史』の編集をおこなった(2022年10月に出版予定)。そして、世界農業遺産の保全に関するFAOの国際シンポジウムでの発表、日本農芸化学会でのシンポジウム、日本・ナイル・エチオピア学会ニュースレターの特集等で研究成果を公開した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルス感染症流行の影響によって、当初予定していた国外での調査は困難だった。だが、本研究の目的は、地球上のさまざまな地域における国家や市場への包摂/排除に関わる人間と非人間による他者への意図的・非意図的な働きかけの連関が、東南アジア大陸部に拡がる山塊に創発したゾミアのようなある種の自律的な場所を創発する動態を理解し、そこに関与するテクニカルな方途を開発することにある。そこで、日本におけるゾミア的な空間を主な対象にした現地調査を実施した。その際に、遺産保全やまちづくり・都市計画等の現場でランドスケープデザインに携わってきた景観デザイン研究者による共同研究体制を組織した。 その結果、ソミア論の舞台となった東南アジア大陸部を含む世界各地の変動帯における人間-異種-物質による活動の絡まり合いをヴァナキュラーなランドスケープデザインとして捉え、その個別性と普遍性を明らかにする研究枠組を設定できた。そして国内外の変動帯(プレート境界沿いの地殻変動が活発な場所)で環境・市場・国家の絡まり合いによるヴァナキュラーなランドスケープの創発に関する民族誌研究をおこなってきた地域研究者と、遺産保全やまちづくり・都市計画等の現場でランドスケープデザインに携わってきた景観デザイン研究者による研究の視点や方法論を構築した。そうした学際・文理融合的な視点と方法論に基づく、新たな地域研究の成果を『ゾミアの地球環境学:四国山地の地質・生態・歴史』という学術書としてまとめることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、①東南アジア大陸部に拡がる地形・地質や生態環境と国家形成の関係に焦点をあてた「ゾミア論」の時空間的な拡張および、②地域研究とランドスケープの保全や形成に関する実践との融合や共通言語の構築を目指した、学際・文理融合的なアプローチにもとづく実践的研究を展開する。そうすることで、Ⅰ.他地域との比較を通じた東南アジア地域研究の拡張、Ⅱ.建築学・都市計画・土木工学・造園学といった実務的な研究領域と地域研究の融合、Ⅲ.遺産保全や都市計画、まちづくりに関する実務的な課題への地域研究の応答を目指す。 そのために本研究は、1)東南アジアと世界の地域を相互参照して、国家や市場への包摂/排除に関わる人間と非人間による他者への意図的・非意図的な働きかけの連関がある種の自律的な場所を生み出す動態を理解するとともに、2)そうした動態の総体としてのランドスケープの保全や形成についての実務に携わる研究者との協働に基づき、そうした場所の創発に関与するテクニカルな方途について考察する。
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Causes of Carryover |
本研究は「ゾミア的空間の地球史」という、人間と非人間による関係の歴史を明らかにする学際・文理融合的な視点と方法論の確立と発展という点では、共同研究者のこれまでの調査研究による蓄積もあって当初の予定より進展している。 だが、新型コロナウイルス感染症の流行による影響で、予定していた海外での現地調査や国際会議でのパネル発表等が困難になった。このため、本研究課題の補助期間を一年延長して、2022年度に現地調査等を実施する。
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Research Products
(19 results)