2021 Fiscal Year Research-status Report
診断前支援段階における自閉スペクトラム症児の早期社会接続に関する介入手法の確立
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20K20844
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
大石 幸二 立教大学, 現代心理学部, 教授 (80302363)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | 自閉スペクトラム症 / 情動共有 / 身体運動 / 対人相互作用 / こだわり / 過敏性 |
Outline of Annual Research Achievements |
第2年次の研究では、逆模倣やミラーリングのような簡易で侵襲性の低い早期社会接続のための介入手法が、自閉スペクトラム症児の不安や恐怖を誘発・増悪させることなく、肯定的な対人相互作用を促進するという仮説(秋元・大石・若井・藤島,2020)を検証(再現性を確認)することを目的とした。令和2年度に引き続いて、新型コロナウイルス感染症のまん延による国・自治体の緊急事態宣言の発出等が続き、都道府県境を跨いでの移動を伴うフィールド調査が不能となった。また、唾液を採取してこれに含まれるコルチゾール濃度を測定し起床時コルチゾール反応(CAR)を指標とするストレス度を判定する方法は、令和3年度も選択することができなかった。 このような制約のある中でも、令和3年中は学校が一斉休校措置をとることがなかったことから、学校現場を訪問して「知的障害を伴う自閉スペクトラム症(ASD)児における対人相互作用の変容」に関する研究を進めた。逆模倣やミラーリングのような介入手法における微笑表出や視線一致に着目して、対人相互作用が質的に変化する過程を検討した。そして、身体運動の媒介や共有が重要な役割を果たす可能性について考察した。身体運動活動は、ストレスの緩和や抑うつの寛解にも効果があることが臨床心理学的研究において知られており、本研究でもストレスや抑うつと関連の見られる「こだわり」と「過敏性」の低下を認めた。この研究成果は『臨床発達心理実践研究』に研究論文として投稿され、現在査読を受けている途上にある。今後、さらに考察を深めていきつつ、診断前支援段階における早期社会接続に関する介入手法として、保育所・幼稚園において社会実装が可能かどうかを検証していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染症を拡げないために、唾液の採取やその解析はできなかった。また、度重なる緊急事態宣言の発出により、所属研究機関に研究協力者を招いて行う実験的観察も不可能であった。さらに、新型コロナウイルス感染症のまん延状況等を勘案して設定される所属機関の活動制限指針により、直接研究協力者に接近・接触を行う手続きの履行も不可能であった。よって、研究を一部遠隔方式に切り替え実施する必要が生じた。その結果、研究を当初計画どおりに実施することができなかった。 それでも、第2年次の計画として立案した内容(事例研究)については規模を縮小して一定の範囲で遂行し、成果を修めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルスはその発見以来、変異が次々に報告されており、その出口が見通せないという状況が続いている。行動制限が研究実施に及ぼす影響は甚大であり、過去2年間、フィールドでのアクショクリサーチはできていない。その一方で、唾液等の生体物質を採取して、これに含まれるホルモンや生化学的生成物を解析するための試薬やキットを入手するための物流への影響も無視することができないくらい大きなものになっている。このことを見越して生物指標ではなく、行動・心理指標に従属変数を変更して、第1年次から研究を継続するための工夫を凝らして、遂行してきた。このような工夫は、研究最終年度にあたる令和4年度においても、引き続き行わなければならない見込みである。このように工夫と調整を行うことで、当初立案した研究計画を、可能な範囲で遂行することができる。 なお、第3年次(令和4年度)は、当初計画では自閉スペクトラム症が疑われる幼児の二次的障害の予防に向けた取り組みと社会実装のためのフィールド調査を予定している。新型コロナウイルス感染症のまん延が継続していた場合には、前者の研究(予防に向けた取り組み)について規模を縮小して実施する。一方、後者(フィールド調査)については遠隔方式を駆使して研究を推進する方法を検討している。加えて、これまで実践型研究で連携・協働してきた実践家および研究者(札幌・八戸・山口・高松・鹿児島)から、必要に応じて助言・助力を得ることができるよう依頼済である。
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Causes of Carryover |
令和2年度に引き続いて、令和3年度も新型コロナウイルス感染症のまん延による国・自治体のまん延防止等重点措置や緊急事態宣言の発出により、都道府県境を跨いでの移動を伴うフィールド調査ができなかった。そのため、令和3年度に旅費として計上した予算は執行不能であった(令和4年度への繰越額:660千円)。また、フィールドでのアクションリサーチを行う際に支出することを見込んでいた人件費・謝金についても執行することができなかった(令和4年度への繰越額:30千円)。以上が次年度使用額が生じた理由である。その一方で、遠隔方式による研究実施を進めるための物品費や消耗品費を支出しながら、令和3年度は可能な範囲で研究を推進し、早期行動発達支援に関する実験系の構成を行った。 令和4年度には、その他(令和4年度への繰越額:3千円)と合わせて、693千円が繰越額となる見込みである。これら令和3年度の繰越額は、過去2年間にわたって実施できていないフィールド(東北や九州など)でのアクションリサーチを実施するために執行する。また、これまでの研究成果を国際学会誌に投稿するためにも使用する。 当該年度(令和4年度)の所要額(1,700千円)は、当初計画どおり2次的障害の予防に向けた基盤整備としてパイロット・ケーススタディの調査費に充てる。そして、予備的研究データを国際学会誌のBrief Reportへの投稿経費に使用する。
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Research Products
(6 results)