2021 Fiscal Year Research-status Report
光の量子揺らぎまで見えるホモダイン検波型フォトサーマル顕微鏡
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20K21158
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
衞藤 雄二郎 京都大学, 工学研究科, 准教授 (50600003)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | 光量子揺らぎ / ツインビーム / 強度相関 / 空間分解 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では光の持つ量子揺らぎを計測におけるプローブとして活用した新しいイメージング法を開発し、生命科学分野へ応用することを目指している。 量子揺らぎを活用したイメージング法を実現するためには、光子統計性や強度相関などの光の性質がビーム断面上でどのように変化するか(空間依存性)を評価することが重要である。本年度は、光パラメトリック下方変換過程を利用してツインビームを生成し、強度相関の空間分布を評価することに成功した。具体的には、波長532nmのナノ秒パルスレーザーを1cmの周期分極反転LiNbO_3結晶に入射し、パラメトリック下方変換によってツインビームを生成した。ツインビームの波長は、約960nmと1190nmである。この2色のツインビームの強度相関の空間依存性を測定するために、光路差可変のツインビームを励起光として和周波発生を行い、生成された和周波光の空間分布を光路差を変えながら測定した。その結果ビーム断面の中央部分において、端よりも大きな強度相関が観測された。規格化された強度相関の最大の大きさはg(2)=1.4であった(この場合コヒーレント光を分離した場合の相関の大きさがg(2)=1となる)。 次に、周期分極反転LiNbO_3結晶の温度を変え、様々な出射波長で強度相関の測定を行った。結晶の温度を変えることで、ツインビームの周波数差約1500カイザーから3000カイザーまで変化させ、全領域において1を超える強度相関を観測することに成功した。 今年度は高強度ツインビーム生成のメカニズムを理解するという観点でも、重要な知見が得られた。具体的には、非線形結晶を高強度で励起したことによって、結晶中で非線形な位相シフトが生じていることを示唆する結果が得られた。 今後は、開発したツインビームの出射強度を上げ、ツインビームによる増強した非線形ラマン測定の実現を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、量子揺らぎを活用した新しいイメージング手法の実現を目指している。 本年度は特に、「量子揺らぎの制御光源の開発」に関して大きな進展が得られ、さらにその光源を利用した新しい計測手法の実現の目途を立てることができた。 具体的には、パラメトリック下方変換過程を利用することで、周波数差1500カイザーから3000カイザーまでの出射が可能な波長可変ツインビーム光源を開発することに成功し、その全領域においてコヒーレント光を超える強度相関を観測することに成功した。本研究で開発したツインビーム光源は、瞬間強度が100Wを超えるような高い強度を出射することができる。この光源をさらに高強度化しピーク強度を1kW程度とすることで、量子揺らぎによって増強した非線形ラマン測定の実現可能になると期待できる。 本年度は、ツインビームの更なる高強度化を実現する上でも重要な知見が得られた。高い強度で非線形光学結晶を励起した場合、生成されるツインビームの強度相関の時間相関幅(時間波形)が出射波長によって変化するという現象が観測された。この現象は、結晶中での非線形位相シフトの効果として定性的に理解することができる。今度ツインビームを更に高強度化していくためには、この非線形位相シフトを相殺するメカニズムを組み込むことが重要となる。 もう一つの目標である空間分解型のホモダイン測定の原理実証に関しては、光源の強度の不安定化など実験装置の不具合によってあまり進展が得られなかった。ただし上述したように、ツインビーム光源の技術に関してはいくつかの大きな進展が得られた。そのため、総合的に評価して研究はおおむね順調に進んでいると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
1つ目の目標は、量子揺らぎによって増強した非線形ラマン測定の実現である。そのためにまずはツインビーム光源の更なる高強度化を実現する。プリズムや回折格子のペアーを用いて、非線形光学結晶中でのツインビームへの非線形な位相シフトの影響を可能な限り低減する。そして、ピーク強度が1kW以上、高い強度相関を有したツインビーム光源を開発する。増強した非線形ラマン測定の検証実験では、ツインビーム光源から出射したシグナル光とアイドラー光に光路長差を設けて、ポリスチレンビーズに入射する。光路長差が無い場合と光路長差が大きい場合での非線形ラマン信号を測定し、量子揺らぎによって生じる強度相関による増強効果を実証する。さらに、スライスしたマウス脳の脂質などのバイオサンプルを対象として、増強ラマンイメージングの実現を目指す。 2つ目の目標は、空間分解型のホモダイン測定の原理実証実験の実現である。本実験を実現する上で重要となる信号光と散乱光が安定に同軸伝播する光学系を構築し、ショット雑音限界での空間分解ホモダイン測定の実現を目指す。
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Causes of Carryover |
本年度は、レーザー光源の不安定化などの装置の不具合のために、光学部品の選定等に遅れが生じた。本年度未使用額と次年度の予算は、本年度完成に至らなかったイメージング装置の構築費用として、主に光学部品の購入に用いる予定である。
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