2020 Fiscal Year Research-status Report
マイクロプラスチックはアサリによってナノ化されるか?
Project/Area Number |
20K21326
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小川 展弘 東京大学, 大気海洋研究所, 技術専門職員 (30626536)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伯耆 匠二 三重大学, 生物資源学研究科, 助教 (10809354)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | マイクロプラスチック / 摂餌生態 / アサリ / ナノプラスチック |
Outline of Annual Research Achievements |
マイクロプラスチックによる海洋生態系の汚染が深刻化している。マイクロプラスチックのもつ「生物学的難分解性」と「高い有害化学物質の吸着能」は将来の海洋生態系に大きな影響を与える可能性がある。本研究は二枚貝の摂餌行動によりマイクロサイズのプラスチックが破壊され、より危険度の高い可能性があるナノプラスチックを生み出している可能性を検証するものである。 本年度はまず、アサリの飼育環境を整備するとともに、餌料として珪藻2種の培養を開始した。様々な大きさのアサリに珪藻とともにマイクロビーズを給餌したところ、アサリの大きさにより摂餌可能なマイクロビーズの大きさが異なる傾向が見いだされた。顕微鏡下での解剖やミクロトーム法で露出させた胃内のビーズは一部で変形が認められ、摂餌後プラスチック片に物理的な力が加わっている可能性が示唆された。これらの結果は国内研究会で発表した。 マイクロプラスチックビーズが生体内で受けた物理的な影響を解析するためには、アサリが摂餌したマイクロプラスチックを体内の有機物から単離・精製して微細構造を観察する必要がある。そこでプラスチックの形態に影響を与えないような温和な条件で、単離精製する技術の開発をおこなった。その結果、化学処理と酵素処理条件を組み合わせて実施した後に密度勾配遠心法をおこなうことで、非破壊で高度に精製できることを明らかにした。本法は技術的にアサリが摂餌・分解した珪藻の被殻も同時に単離可能である。マイクロプラスチックを餌として摂餌した場合における消化吸収効率に与える影響を解析できるようになるなど極めて有益な技術となる可能性が見出されつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定どおり、本年度はアサリに給餌実験をおこなうための飼育実験環境を整備し、摂餌行動によるマイクロプラスチックへの影響を解析を試みようとした。しかしコロナ禍の影響でこれまで飼育実験の知見のある天然個体の採取を十分におこなうことができなかった。そこで天然個体だけでなく、市販の個体も使って摂餌実験をおこなうことにしたが、個体の大きさや生息環境の違い、長期間の輸送・冷蔵保管によるストレスなどの影響から摂餌行動が安定せず再現性の高い結果が得られなかった。そこで飼育環境整備に当初想定していた以上に時間をかけて対応したため、当初計画よりやや遅れる状況に陥った。
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Strategy for Future Research Activity |
摂餌行動により取り込んだプラスチック片に与えられた物理的なダメージの解析に重点を置く。開発したプラスチック片の単離・精製技術は当初想定していた以上に再現性が極めて高くかつ簡便であるという特徴を備えていた。また、摂餌行動により破壊されるはずの珪藻の被殻の状態も明らかにできる可能性も新たに見いだされた。そこで、珪藻の種類とアサリの大きさ、マイクロプラスチックの大きさの3種類の要素を変えて網羅的にマイクロプラスチックによる影響を明らかにする。解析には本研究が実施される大気海洋研究所中央顕微鏡施設に新たに導入された電子顕微鏡観察用前処理装置のオスミウムコーターやレーザー共焦点顕微鏡なども駆使して実施する。物理的な破壊の痕跡が見いだされた場合においては、ナノプラスチックの検出を透過型電子顕微鏡を用いて試みることで、珪藻被殻の硬度とマイクロプラスチックの細粒化の関係性のみならず、マイクロプラスチックの摂餌行動が消化吸収に与える影響も合わせて明らかにする。
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Causes of Carryover |
本年度はコロナ禍の影響により、天然種苗の採取ならびに学会発表に計上していた旅費を執行できなかった。また、研究補助に人件費も計上していたが、コロナ禍で出勤が制限されるため本年度の執行は見送った。さらに天然種苗が採取できない代わりとして市場で購入したアサリの飼育環境の整備をおこなったが、それに必要な物品は既に研究室で所有していたため、ほとんど新たに消耗品の購入費を要することなく研究を実施することができた。 次年度は、摂餌されたマイクロプラスチック片の微細構造を網羅的に解析することを計画している。実現には極めて多くの実験作業をルーチンで進めることができるよう、高出力の光学機器や高感度のカメラなどを購入する予定である。
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