2020 Fiscal Year Research-status Report
Optical control of energy dynamics in mitochondria
Project/Area Number |
20K21382
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
八尾 寛 東京大学, 物性研究所, 特任研究員 (00144353)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
井上 圭一 東京大学, 物性研究所, 准教授 (90467001)
|
Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2022-03-31
|
Keywords | H+ ポンプ / 微生物型ロドプシン / オプトジェネティクス / ミトコンドリア / エネルギー代謝 |
Outline of Annual Research Achievements |
ミトコンドリアにおいては、電子伝達系における化学反応によりH+がマトリックスから膜間腔へ汲み上げられ、内膜を介したH+電気化学勾配が形成される。そして、内膜に存在するH+-ATP合成酵素が、そのH+濃度勾配を利用し、アデノシン二リン酸(ADP)をアデノシン三リン酸(ATP)に変換する。本研究においては、藻類、微生物由来のH+ポンプロドプシンをミトコンドリア内膜へターゲッティングすることにより、光エネルギーを用いて、内膜を介したH+電気化学勾配を作り出し、内在のH+-ATP合成酵素を駆動し、ATP産生を促進することを着想した。令和2年度研究においては、ミトコンドリア内膜トランスロカーゼ複合体結合タンパク質のミトコンドリアターゲティングシグナルTim29[1-90]のC末に微生物型ロドプシンの一種である、光駆動外向きH+ポンプ、archaerhodopsin-T (ArchT)を配位した遺伝子コンストラクト (Tim29[1-90]-ArchT) を作製し、ミトコンドリアマトリックスpHセンサー2xCox8-pHujiと共発現するプラスミドを作製し、紫外(390 nm)、青(438 nm)、緑青(475 nm)、青緑(513 nm)、緑(549 nm)、黄(575 nm)、赤(632 nm)の各色光を照射しながら、pHujiの蛍光を計測するシステムを構築した。 アスガルド古細菌由来の内向きH+ポンプロドプシンSzRをミトコンドリア内膜へターゲッティングすることを着想した。SzR機能の詳細を解析した結果、ミトコンドリア内膜においても高いH+輸送効率を実現することが見込まれた。しかし、pHuji蛍光を用いたマトリックスpH計測を行うにあたり、作用スペクトルの赤方偏移したSzRの探索または改変体の作製が望まれた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
pHuji (Shen et al., 2014)は、赤色蛍光タンパク質DsRedの改変体で、高いpH感受性を有し、pHが5.5から7.5に変化するにともない、蛍光強度が22倍になる。また、pKa値が7.7とミトコンドリアマトリックスのpH (7.8)付近にあるので、ミトコンドリアマトリックスのpH変動の計測に最適である。そこで、Tim29[1-90]-ArchT遺伝子、IRES2配列、2xCox8-pHuji遺伝子からなるコンストラクトを有するプラスミドを作製し、ND7/23細胞などの培養細胞に発現した。顕微鏡下にpHuji発現細胞を同定し、励起フィルター530-550 nm、ダイクロイックミラー 570 nm、吸収フィルター >590 nmで蛍光計測した。定量的には、画像取り込みソフトウェア(AquaCosmos, Hamamatsu)制御下に、高感度CMOSカメラ(ORCA-Flash 4.0 V2, Hamamatsu)でタイムラプス画像取得し、ImageJで蛍光強度を経時的に解析した。顕微鏡コンデンサを水浸対物レンズ(LUMPLFLN40XW, NA 0.8, Olympus)に置き換え、リキッドライトガイドを介して、多色LED光源(SpectraX, Lumencor)と接続することにより、蛍光計測しながら各色光において1.7-15.8 mmW/mm2の強度で照射することが可能になった。ArchT活性化におけるpHujiの退色を最小にするにあたり、赤色光(632 nm)が最適である。Tim29[1-90]-ArchTの定常光電流に対する作用スペクトルを計測したところ、赤色光(632 nm)の感受性は、最大値(575 nm)の80%だった。したがって、光照射に応答するミトコンドリアマトリックスpH変動を計測する準備が整った。また、SzR機能の詳細を解析した。
|
Strategy for Future Research Activity |
令和2年度の研究において、ミトコンドリアマトリックスpH計測システムがほぼ整ったので、本システムを用いて、Tim29[1-90]-ArchTが光依存的にpHを上昇するとする仮説を検証する。pH上昇の場合、Tim29[1-90]-ArchTがマトリックスから膜間腔へH+を輸送するように配向していることが示唆される。さらに、ミトコンドリア膜電位を計測し、光依存的に過分極するとする仮説を検証する。pH下降の場合、Tim29[1-90]-ArchTが膜間腔からマトリックスへH+を輸送するように配向していることが示唆される。この場合、ArchTをアスガルド古細菌由来の内向きH+ポンプロドプシンSzRで置き換え、ミトコンドリアマトリックスpHを計測する。本研究と並行して行っているプロジェクトにおいて実施しているSzRの構造・機能研究(Higuchi et al., 2021)から、SzRのミトコンドリアpHの光制御に適していることが示唆される。光依存的なpH変動が認められない場合、Tim29[1-90]-ArchTがミトコンドリア内膜に発現していない可能性がある。あるいは、外向きH+輸送と内向きH+輸送の配向が無作為に混在しているのかもしれない。この場合、4xCox8など、他のミトコンドリアターゲティングシグナルを用いることを検討する。
|
Causes of Carryover |
本研究においてC2C12細胞などの培養細胞にミトコンドリアターゲティングタンパク質を発現させ、機能を検証することを計画していた。そのため、定期的に細胞培養を行う技術員の雇用に必要な人件費を交付時において計上した。しかし、2020年度9月入学の大学院生1名が研究チームに参加したため、細胞培養・遺伝子トランスフェクションの教育の過程において、技術員を新たに雇用する必要がなくなった。ゆえに、人件費ならびにそれに伴う物品費の一部を繰り越した。また、主要学会である生物物理学会がオンライン開催になるとともに、2020年度に予定していた第19回レチナール蛋白質国際会議が2021年度に開催延期されたことにより、旅費の支出が大幅に減少した。次年度は、研究の進捗に伴い物品費の増加が見込まれるので、物品費に充てることを計画している。
|
Research Products
(9 results)