2020 Fiscal Year Research-status Report
損傷チェックポイント機構によるDNA二重鎖切断修復の正確性制御メカニズム
Project/Area Number |
20K21399
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
高橋 達郎 九州大学, 理学研究院, 教授 (50452420)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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Keywords | 相同組換え / DNA損傷チェックポイント / ゲノム安定性 / ミスマッチ修復 / ATM |
Outline of Annual Research Achievements |
DNAの二重鎖切断(DSB)は損傷チェックポイントにより検知され、その下流で細胞周期の停止や損傷修復が制御される。損傷チェックポイント経路は、一本鎖DNAによって活性化されるATRキナーゼ経路と、DSB末端によって活性化されるATMキナーゼ経路に大別される。ATMはDSB応答に特に重要であり、非相同末端結合の制御を行うだけでなく、DNA二重鎖の削り込みを制御して相同組換え(HR)も活性化する。HRは正確なDSB修復経路と見なされるが、組換え酵素Rad51やRad52は、単独では80~90%程度に類似した配列間でもHRを促進する。ヒトを含む多くの生物のゲノムには類似配列が多数存在し、類似配列間の異所的なHRは転座や欠失などの要因となる。HRの正確性を保証するのはMutSホモログ依存的なミスマッチ応答機構である。この機構はDNA合成エラーを修復してDNA複製正確性を高めるシステム(ミスマッチ修復)として著名であるが、同時に類似配列間のHRを抑制してHRの正確性を高めるシステムでもある。 本研究では、損傷チェックポイント経路がHRの正確性を制御する可能性について、予備的なデータをもとに検討した。損傷チェックポイント経路の様々な阻害剤を利用して類似配列間のHR効率を調べたところ、ATM阻害によって類似配列間組換えが上昇することが示唆された。そこで組換え正確性を測定する実験系を構築し、各種阻害剤の影響を調べたところ、阻害剤の有無によって組換えの正確性には顕著な違いが見られなかった。このことは、ATM阻害剤によって類似配列間組換えの効率が上昇することと一見矛盾するが、実験系の制約を反映している可能性があり、さらなる詳細な検討が必要と考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度の研究から、特にATM経路が類似配列間の異所的な組換えを抑制する機能を持つことが示唆されたものの、おそらくは実験系の制約から、一貫性のある実験結果が得られていない。一方で、実験系の構築、発展については順調に進んでおり、ATM/ATRキナーゼを含む多くの因子について抗体の作製に成功し、また関与する因子の組換えタンパク質発現精製も順調に進んでいる。これらのことから、実験系の構築と高度化については計画通りに前進しており、研究を支える技術面の開発は順調である。
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Strategy for Future Research Activity |
損傷チェックポイント経路、特にATM経路が、類似配列間組換えのどのステップに促進的あるいは抑制的な機能を持つかを明確に示すことが最大の課題であり、この点を検証するために特異的抗体を用いた免疫除去実験や、相同組換えの正確性を定量的に測定する実験系の構築を進める。また、チェックポイントキナーゼの標的となる因子についても、先行研究を参考に、有力な候補となるリン酸化部位の変異体作製を進めている。これらの材料、実験系を組み合わせることで、損傷チェックポイント経路が相同組換えの正確性維持に果たす役割を解析する予定である。
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Causes of Carryover |
物品費等は概ね計画通りに使用したが、コロナウイルス感染拡大に伴って旅費等への支出がなくなり、その結果次年度繰越額が生じた。次年度においては、計画を微修正し、旅費等の支出予定分を物品費等に計画的に振り替えて研究の進展を図る予定である。
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