2020 Fiscal Year Research-status Report
物理刺激(乱流)によるタンパク質分泌機構とその生理的意義の解明
Project/Area Number |
20K21523
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Research Institution | Shiga University of Medical Science |
Principal Investigator |
西 英一郎 滋賀医科大学, 医学部, 教授 (30362528)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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Keywords | タンパク質分泌 / 物理刺激 / 血小板 / ナルディライジン / ペプチダーゼ |
Outline of Annual Research Achievements |
生体内において、あらゆる細胞は隣接する細胞、細胞外基質、血液を含む細胞外液などから物理的刺激を受けている。物理的刺激には圧力、張力、せん断(ずり)応力、浸透圧や温度などが含まれ、これらが時間空間的に変化することが生体の恒常性維持、逆に疾患発症にも関わっていることは容易に想像できる。物理的刺激が細胞内に伝達され遺伝子発現調節につながる経路(メカノトランスダクション)はある程度解明されているが、同刺激によって特定のタンパク質分泌が誘導される現象やその分子機構についてはよくわかっていない。最近我々は、乱流(動きが不規則に絶えず変動している乱れた状態の流体)がiPS細胞由来巨核球(imMKCL)からの血小板産生を促進することを明らかにした。また乱流刺激によりナルディライジン(nardilysin, NRDC)の分泌が誘導されるがmRNAレベルの変化は伴わないこと、NRDC分泌は乱流強度に比例して増加し、分泌したNRDCが血小板産生を正に制御していることが明らかになった。NRDCはペプチダーゼ活性を有するが、酵素活性欠損変異体NRDC(NRDC-E>A)には血小板産生誘導作用を認めなかったことから、NRDCが酵素活性依存性に血小板産生に寄与していることが示唆された(Cell 2018)。NRDCは典型的なシグナルペプチドを有さないリーダーレスタンパク質であり、いわゆるunconventional経路を介して分泌される。本研究においては、imMKCLにおけるNRDC分泌を主たるモデルとして、1) 乱流によって誘導される「NRDC分泌」と「血小板産生」という2つの事象の因果関係、2)ペプチダーゼ活性がいかに血小板産生に寄与するのか、を明らかにすることを目的とする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、1) 乱流によって誘導される「NRDC分泌」と「血小板産生」という2つの事象の因果関係、2)ペプチダーゼ活性がいかに血小板産生に寄与するのか、を明らかにすることである。1) については、NRDC欠損imMKCL(CRISPR-Cas9システム)、巨核球特異的NRDC欠損マウス(Nrdc floxマウスとPf4-Creマウスの交配)の作製に取り組み、後者についてはすでに目的のマウスが得られ、血小板数など基礎的な解析を開始している。2)については、NRDCのペプチダーゼ活性の血小板産生における役割を生体で明らかにするため、ペプチダーゼ不活性型Nrdcノックインマウス(E>A KIマウス)を作製した。しかしながら、同マウスホモ接合体(遺伝型背景:pure BL6)は周産期で100%死亡することがわかったため、現在遺伝型背景が異なるマウス(ICR)と戻し交配を行っている。以上から、全体としては「おおむね順調に進展している」と自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
1)NRDC欠損imMKCLの解析:CRISPR-Cas9システムを用いてNRDC欠損imMKCLを作製し、1. 乱流による血小板産生を対照巨核球と比較。2. NRDC欠損imMKCLの培地にNRDCリコンビナントタンパク質を加えて血小板産生を検討。NRDC添加で血小板産生が誘導されれば、細胞外NRDCのみで血小板産生が誘導されることの証明となる。血小板産生が誘導できない場合は、細胞内NRDCあるいはNRDCの細胞内から外への移動(分泌)が必要だと解釈できる。2)巨核球特異的NRDC欠損(Pf4-CKO)マウスの解析:in vivoでの血小板産生において、NRDCが細胞自律的に働くか否かを明らかにするため、Pf4-CKOマウスの末梢血を採取し血小板数を測定する。また、骨髄・脾臓・肺を取り出し組織学的解析 (巨核球の形態・数) を行う。さらに血小板産生が亢進すると考えられる①急性失血、②急性炎症(リポポリサッカライド腹腔注射による敗血症モデルなど)における発現解析も行う。3) E>A KIマウスの解析:マウス遺伝型背景を変えることで生存するホモ接合体が得られた場合、2)と同様の解析を行う。
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Causes of Carryover |
所望品の値引き分を翌年に繰り越したため
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