2020 Fiscal Year Research-status Report
大脳辺縁系に発症の原因が存在する慢性疼痛の分子メカニズムの解明と新規治療薬の開発
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20K21654
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
島田 昌一 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (20216063)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中村 雪子 大阪大学, 医学系研究科, 特任講師 (90548083)
近藤 誠 大阪大学, 医学系研究科, 准教授 (50633012)
小山 佳久 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (40397667)
臼井 紀好 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (00784076)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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Keywords | 慢性疼痛 / 条件付け / 大脳辺縁系 / オピオイド |
Outline of Annual Research Achievements |
慢性疼痛患者に対しても、急性痛と同様の治療薬であるNSAIDsやプレガバリン、さらに抗うつ薬等が使用されているが、いずれにしても効果は乏しく、唯一オピオイドがある程度の効果を示す。米国では慢性疼痛患者へのオピオイド処方がきっかけとなる依存症が増加し、その結果過剰摂取が原因となる死亡者数が年間の交通事故の死亡者数を上回り大きな社会問題となっている。我々はこの様な難治性の慢性疼痛のメカニズムを調べるために、条件付けの痛みの行動実験系を確立した。古典的条件付けが痛みの知覚に影響を与えることは何十年も前から知られている。ただし、条件付けによって修飾される痛みの正確なメカニズムは、それに最適の行動実験系を確立する必要がある。本研究では、無条件の侵害受容刺激として、ホルマリンを後足に注射したマウスを使用して、条件付けされた痛みを検出する新しい方法を開発した。この方法を用いると、条件づけされたマウスは痛み刺激を加えなくても痛み様行動を示した。これらの結果は、条件付けされた侵害受容反応が、以前に痛みを経験した環境への曝露のみで誘発され得ることを示している。この実験系を用いた条件付けされた侵害受容反応は少なくとも2週間持続した。さらに、条件付けされた侵害受容反応はフェンタニルによって減少したが、イブプロフェン、プレガバリンまたはフルボキサミンによっては減少しなかった。この方法は、過敏性の慢性疼痛のメカニズムを研究し、新しい治療法を開発するのにも役立つと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
パブロフの条件反射と同様の条件付けを用いて、マウスに実際の痛みを与えなくても、痛み様行動を起こすことに成功した。この実験系では、元々の痛みの原因が治った後でも、痛みを感じた時の環境を再現すれば痛みが生じ、この様な痛みの記憶は少なくとも2週間は継続した。痛みに関してこの様な条件づけが脳内で形成されると、それが慢性疼痛などの長期にわたる難治性疼痛の原因の1つになると考えられた。我々はこの実験系を用い、次年度には、この様な条件づけによって増強する疼痛に関わる神経回路とそのメカニズムを明らかにすると共に、条件づけによって生じる難治性の痛みの治療薬を新しく開発する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
1)条件づけによる疼痛形成に関与する脳部位を明らかにする:条件づけによる疼痛モデルを用いて、マウスに痛みを惹起した際にどの部位が活性化しているかをc-fosやArcなどの神経活動マーカー遺伝子を用いて、免疫組織化学やin situ hybridization法で解析する。またホルマリンで痛み刺激をしたものと、痛み条件付したマウスのc-fosの発現パターンの比較を行い、情動痛に関与する脳領域の特定を行う。 2)条件づけによる疼痛に対する5-HT3受容体の関与(5-HT3受容体ノックアウトマウスを用いた解析):我々が構築した行動試験系を用いて、条件づけによって生じる痛みへの鎮痛作用が5-HT3受容体を介しているか遺伝子改変動物を用いて検討する。具体的には5-HT3受容体の遺伝子欠損マウスを用いて5-HT3受容体アゴニストの鎮痛効果がキャンセルされるか検討する。 3)条件づけによる疼痛形成に関与する神経細胞と5-HT3受容体陽性細胞との形態学的な相関関係:条件づけによる疼痛モデルを用いて、マウスに痛みを惹起した際に発現するc-fos神経細胞と5-HT3受容体発現細胞がどの様な相互関係にあるか、5-HT3受容体プロモータ下でGFPを発現させたトランスジェニックマウスを用いて解析する。
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染拡大時に、大学での新規の動物実験の停止など、研究活動を制限せざるを得なくなり、その影響で研究費の使用額も減少した。
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