2020 Fiscal Year Research-status Report
Energy production from radioactive waste
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20K21870
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Research Institution | Chubu University |
Principal Investigator |
堤内 要 中部大学, 応用生物学部, 教授 (50329851)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
室屋 裕佐 大阪大学, 産業科学研究所, 准教授 (40334320)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
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Keywords | 使用済み核燃料 / 放射線分解 / 酸化鉄ナノ粒子 / エネルギー生産 / 放射性廃棄物 / 浄化 / 選択的捕捉 / 磁気分離 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、使用済み核燃料の処理に莫大な時間やコストがかかることが問題となっている。また水の放射線分解によるエネルギー生産は近年注目されているが、付与した放射線エネルギーに対して、得られるエネルギーが少なく、生産効率が悪いことが問題となっている。文献調査をしたところ、吉田らの研究によると3μm以上のアルミナ(Al2O3)粉末を水に添加し、放射線照射を行ったところ水の分解効率は向上しており、粒子径が小さいほど効率が上がっていた。本研究ではIONPを用いた水の放射線分解効率について調査を行い、IONPと放射線生成化学種を用いたエネルギー生産システムの開発を試みた。 水の放射線分解効率を調べた結果、3μmのアルミナを添加した試料は通常の約3倍の分解効率であったのに対し、IONPは100~1000倍以上の分解効率を有していた。分解効率と電圧測定試験から、1年で生じる使用済み核燃料(1000 t/年)からどの程度の電力が生み出せるか計算した結果、1時間の放射線照射当たり、最低でも1.5万世帯の一日の消費電力(12 kWh/世帯)を賄える可能性が示唆された。この値はIONP添加水に放射線を1時間照射した値であり、今後永続的にエネルギーを取り出せることを考えると、使用済み核燃料とIONPを利用したエネルギー生産システムは非常に有効的であると考えられる。この結果をもとに近日中に特許申請を行う予定である。 一方、東日本大震災の影響によって起こった福島第一原子力発電所の事故やウクライナで起きたチェルノブイリ原子力発電所事故によって広がった放射性物質は10年~25年経つ現在でも残り、北半球に拡散している。この状況の改善に貢献するため、IONPの表面にキレート能を有する化学修飾を施すことで、水あるいは土壌中からの放射性廃棄物の選択的除去を可能とする吸着剤の開発にも着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
共沈法を用いて調製した酸化鉄ナノ粒子(IONP)を各鉄濃度に希釈し、アルゴンガスを封入後、γ線照射を1時間行った。その後ガスクロマトグラフィー(GC)による気相中水素ガスの定量およびo-フェナントロリン法を用いたIONP中の二価鉄定量を行った。その結果に基づいて水の分解効率を算出し、水の放射線分解におけるIONPの影響を調べた。 水の分解効率を算出した結果、1 mg/mLのIONP分散液の分解効率は水のみの放射線分解とほぼ変わらず、高濃度になるにしたがって分解効率は高くなる傾向にあった。本実験の一番高濃度であった約100 mg/mLのIONP分散液では分解効率は水の100~250倍と非常に高い値を示した。この結果に対して、4.17 g/mLの粒径3μmのアルミナ分散液の分解効率は約3倍であった。以上のことからナノサイズの粒子を用いることでより分解効率は上がっている傾向が確認できた。今回得られた結果から、IONPによってコンプトン散乱やクーロン散乱などの放射線散乱が引き起こされ、それにより放射線分解による水の分解量が増えたと推測した。高濃度になるほど水中に含まれる鉄量が増えるため、その分散乱が促進され、分解効率は上がったと考えられる。 当初はこの分解効率の上昇は水素ガスの生成量に反映すると考えていた。ところが、実際には水素ガスはそれほど発生しなかった。大変興味深いことに、水分子から放射線照射により飛び出した電子を鉄が吸収していたのである。発生した水素を回収して燃料電池によりエネルギーを取り出す計画をしていたが、鉄が吸収した電子から直接電気を取り出した方が高効率なはずと考え、その方法の検討を行うこととした。現在、モデル実験系で電気を取り出すことに成功しており、これまで負の遺産と考えられていた使用済み核燃料を新たなエネルギー源として利用できる手ごたえを日々強くしている。
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Strategy for Future Research Activity |
酸化鉄ナノ粒子(IONP)分散液へのγ線照射による水の放射線分解を用いたエネルギー生産は、反応混合液から直接電気を取り出す実験を本格化する。現在、IONP分散液にγ線照射をすると水素ガスの発生と2価と3価の鉄の割合が変化する現象が確認されており、その結果、反応液の中にはヒドロキシラジカルのようなラジカル種が多く存在していると考えられている。ゆえに、γ線照射後の反応液のモデルとして、過酸化水素を少量添加したIONP分散液を考え、この混合分散液から電気を取り出すことができるかを検討する。 最初はアクリルアミドゲル電気泳動の系を用いて、IONP分散液と過酸化水素水をアクリルアミドゲルの両側に設置し、電極間に挟んだ抵抗値とその間に生じる電圧の経時変化から発生した電気量を算出する。予備検討は既に2020年度に行われており、γ線照射で生成すると思われるラジカル種の量に相当する過酸化水素の量で計測可能な電気量が発生することがわかっているので、それらの実験の再現性を確認しつつ、その結果の妥当性と電力の発生が効率的に行われる条件を探索する。 実際の運用を考えた場合は、最初分散液の中で均一に存在しているIONPを、2つの電極の間で片側に局在化させなければならない。放射線が多く飛び交う中で簡単かつ安全に分離するため、磁力あるいは重力を用いたシステムの構築を考えている。即ち、先の実験で用いたアクリルアミドゲルのようなセパレーターを用いない実験系を確立する。実際に、磁石や重力でIONPを電極の片方に局在化させ、そこに電圧が発生することが2020年度の検討で確認されている。2021年度はより効率よく発電できるよう条件検討を試みる予定である。さらに、使用済み核燃料から発せられる実際のγ線の強さを考慮したγ線の照射実験を行い、使用済み核燃料からのエネルギー生産の実証実験を行うことを計画している。
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Causes of Carryover |
2020年度はCOVID-19の影響により、大阪大学への出張を自粛した。また、ウクライナへ出張できなかったため、当初計画より旅費の執行が大幅に減少した。 2021年度もCOVID-19の影響により、旅費の支出は計画通りに執行できない可能性は高い。そのため、旅費を物品費や謝金に流用し、2020年度の繰越金も含めて、今よりもさらに積極的に実験を進める計画である。幸い、研究結果から使用済み核燃料から発せられるレベルの放射線で電気を取り出せるシステムが提案できそうな状況である。 これまでの知見から、実際に放射線を照射しなくても、類似の環境を手持ちの試薬で作り出すことができるので、中部大学で基礎データを数多く収集し、大阪大学量子ビーム科学研究施設でのγ線照射実験で実証実験を行う形で、COVID-19の環境下でもしっかりと研究を進めることができると考えている。何としても、今年度中に特許申請を行い、エネルギー生産の研究をさらに大きく展開できる基礎を整えたい。
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Research Products
(4 results)