2020 Fiscal Year Research-status Report
仮設建造物の歴史ー19・20世紀ドイツにおけるバラック(木造仮設建造物)を例に
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20K22027
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
梅原 秀元 立教大学, 文学部, 特任准教授 (00840117)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | 医学史 / 軍事史 / 空間論 / 仮設建造物 / 軍事物資・技術の民間転用 |
Outline of Annual Research Achievements |
助成初年度(2020年度)は、まず、バラック(野戦病院)に関連する領域として、19世紀から20世紀にかけてのドイツを中心に軍事史および病院史と軍陣医学(Military Medicine)の歴史研究の文献および同時代の関係する文献の調査を行った。ドイツの軍事史の研究状況からは、医学・衛生領域での研究がまだ手付かずなこと、軍陣医学に関しては、とくに、ドイツの従軍看護師の歴史研究が進んでおり、野戦病院の状況を検討する上で、重要な領域であることを確認した。全体としては、第一次世界大戦期を例にした軍事・戦争と医学についての研究が進んでいるものの、その前後の時期のドイツの軍陣医学・医療の研究は、研究状況上の空白であり、これを埋めることが本研究の今後の課題の一つであると考えられる。 本研究で重要な位置づけとなっている空間の問題については、主に、ドイツ語圏の空間に関する社会学や、歴史学研究における空間について検討した。前者については、Martina Loewの"Raumsoziologie"(2001)、Markus Schroer (2009)の "Raeume, Orte, Grenzen: Auf dem Weg zu einer Soziologie des Raums" などを参照しながら、バラックをはじめとする仮設建造物と空間との関係について検討を始めた。その過程では、これらの空間論が、国家や地域のような一定の地理的広がりを持ち、かつ政治的・経済的・社会的・文化的な人間の繋がりによって形成される空間を批判的に検討し、空間についての議論を展開していることを確認した。これらを歴史学にどう応用するのか、とくに、本研究の仮設建造物と空間との関係についてどのような理論的なアプローチが可能かを考えることが次のステップへの課題となることも確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
COVID-19の世界的な流行下でも、幸いなことに研究に必要な文献調査については、インターネットなどを通じて調査を進めることはできた。しかし、研究代表者が新型コロナ禍での授業対応に手間取り、本研究への時間と労力を十分に確保できたとは言えない状況だった。そのことから、当初想定していたほどに文献調査を進めることができていない。 さらに、新型コロナ禍によって、本研究で必要なドイツでの史料調査をいつ行えるかの目途が立っていない。この点が「やや遅れている」とする最大の理由である。2021年夏を予定していたが、おそらくこの時期での実施は難しいと思わる。したがって、現地での調査については、助成期間中、現地へ渡航できるタイミングを逃さぬよう準備することしかできない。 また、新型コロナ禍の今後の状況によっては、助成期間中の調査実施自体が難しくなることも予想されるため、当初の計画と照らし合わせて、「やや遅れている」と判断せざるを得なかった。
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Strategy for Future Research Activity |
調査対象とするバラックが関係する、野戦病院などの軍陣医学について、軍事史と医学史(とくに病院史)の研究文献および本研究が対象とする19・20世紀の文献をもとにした調査を継続する。並行して、軍事、植民地、学校衛生の各領域でのバラックについて、研究文献や当時の刊行史料を用いての調査を継続する。これは、もともと軍の野戦病院での利用を想定されていたバラックが、本来の目的とは違う目的でも利用されていく過程を明らかにするための作業である。さらに、こうした利用から読み取れる、仮設建造物の持つ特性について明らかにしたい。 これらの目的のために、新型コロナウィルスの流行状況にもよるが、ドイツの公文書館及び公立及び大学図書館での史料調査も行う。調査地としては、ベルリンの連邦公文書館、フライブルクの連邦軍文書館、ベルリン州文書館を想定している。図書館については、デュッセルドルフ大学図書館を中心に調査を行いたい。刊行史料、研究文献、そして文書館の未刊行史料に基づく調査によって、バラックを例とする仮設建造物の歴史研究を進めていく。 これらの調査を行うとともに、歴史学における空間の問題について、どのようにアプローチできるのか、その理論的な考察も行いたい。これまでの日本における歴史研究では、空間の問題を突き詰めて検討することはあまりなされていないので、本研究によって、そうした空白を埋めることを目指す。 研究遂行上の課題としては、やはり、新型コロナウィルスの流行次第で、助成期間中にドイツでの調査が不可能になることがあり得ることがある。その場合は。日本で入手できる史料・資料に基づいて研究課題についての研究報告や論文作成を行う。
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Causes of Carryover |
本研究では、ドイツでの調査が重要な位置を占める。しかし、世界的なコロナ禍の拡大で2020年度は、ドイツ国内の移動制限や公文書館・図書館の利用制限といった様々な情報が錯綜していて、適切な現地調査計画を立てることが難しい状況が続いていた。そのため、現地調査に必要な経費を算定することも難しくなり、本助成の使用に対して、非常に慎重にならざるを得なかった。 2021年度も、コロナ禍の状況の見通しは難しいが、2021年度内のドイツでの調査実施を見据えて、史料・資料の調査を継続するとともに、現地の研究者とも連絡をより密にしていく。そのために必要な史料・資料の入手および、ドイツでの調査の上での旅程を確定した上で、旅費や現地での史料入手のために必要な費用(複写費など)への支出に本助成を使用することになる。 上記のような状況から、具体的な金額を提示しての計画の提示をすることは難しいが、本助成の支援のもと研究を行う。
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