2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K22054
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
大泉 陽輔 京都大学, 法学研究科, 特定助教 (90882043)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | 日本法制史 / 親権 / 児童虐待 / 子ども |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の成果は大きく分けて以下の2点にある。 第一に、戦前期日本の児童虐待問題に関する先行研究の整理と、子ども法史研究の方法論に関する検討をおこなった。先行研究を整理した結果、今後の課題として、法学者・児童研究者・社会事業家・民衆・政府など様々なアクターについて、児童虐待問題・親権に対するそれぞれの認識を、彼らの言葉に即して明らかにすることが浮かび上がった。ここでは最早、法制史的考察だけでも社会福祉史的考察だけでも足りない。そこで両者を結び付ける共通の分析概念が必要となるが、この点、歴史社会学や子ども社会学を中心に近年ますます精緻化している子ども研究の方法論が有効であるとの見通しを得た。 第二に、上記のように析出された課題遂行の第一歩として、本年度は親権論の展開について考察した。その際、概説書や論文といった法学者ないし法律家に向けて書かれた著作のみならず、一般向けに書かれた著作をも検討対象に含めた。考察の結果、少なくとも親権論のなかには被虐待児保護にとっての「親権の壁」は見出されなかった。もっとも、昭和8年法制定当時には、確かに立法の遅れの要因を強力な親権の存在に見出す論説が存在した。今後は民衆の親権観をさらに明らかにすることが求められるが、本年度調査した親権に関する一般向け文献のなかに、子どもの利益にも親権の義務性にも言及しないものが見受けられたことは示唆的と考える。 加えて、次年度の検討素材として、児童虐待の発生状況や諸アクターの問題意識、昭和8年法実施状況に関する、新聞雑誌記事や行政文書などの史料調査・収集を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初定めた分析視角はおおむね維持して課題遂行を進められている。 まず、戦前期の児童虐待問題に関する先行研究を再検討した。残念ながら先行研究は多くはないが、そのことが悉皆的検討を可能にしたとも言える。他方、裏を返せば本課題が単に先行研究の隙間を突いたものとならないよう方法論上の工夫を凝らす必要がある。そこで、子ども研究の動向を調査した結果、子ども観の複層性・多層性を認めたうえでその内実を解きほぐすという近年の子ども社会学の方法が有効であるとの知見を得た。 また、親権に関する文献も順調に収集・分析できている。収集に際してはデジタル化資料を活用することで、効率化を図るとともに新型コロナウイルス感染拡大の影響を最小限に抑えている。分析結果につき、著作の目的および親権論の内容に基づいた整理を終えており、戦前期児童虐待問題の法的背景に関して先行研究の見解を問い直すに足りる知見を得た。 加えて、家族史研究の動向にも目を配り、文献の繙読を進めた。これにより得られた知見は次年度の検討を下支えする理論的基盤になると思われる。 ただし、前述した本年度の成果はいまだに論文等の形で公表する機会を得られておらず、現在執筆を進めているところである。成果の公表については課題を残すが、次年度の検討にかかる史料調査を同時並行で進めているため、現在のところ課題遂行に遅れがあるとまでは言えない。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度の方策は大要以下の通り。 第一に、前述した本年度の成果を論文に纏めて公表する。 第二に、新聞雑誌記事を主な素材として、児童研究者・社会事業家・民衆・政府それぞれにおける児童虐待に対する問題意識ないし子ども像を析出する。その際、現代における児童虐待イメージをそのまま当て嵌めることを避け、何が「虐待」とされたかについても注意する。また、近視眼的検討となることのないよう、〈子どもの権利〉論や体罰論の動向なども併せて考察する。 第三に、法学者・児童研究者・社会事業家・民衆・政府の抱く子ども像の先に昭和8年児童虐待防止法を位置付け、多層的子ども像が同法へ収斂される実態とその特質を考察する。これは法制史的研究と社会福祉史的研究を統合する試みであると同時に、昭和8年法の評価が現代の実務的観点からのないものねだりに陥ることを避ける工夫でもある。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大により、学会参加および資料調査のための出張を取りやめた。 また、所属機関変更および転居を予定していたため、物品購入を要急のものに止めた。
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