2020 Fiscal Year Research-status Report
Survival Tactics by and Social Integration of Immigrants in Japanese Society: Reexamination of Assimilation Theories
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20K22172
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Research Institution | Kumamoto Health Science University |
Principal Investigator |
伊吹 唯 熊本保健科学大学, 保健科学部, 助教 (00880189)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | 移民 / 国民統合 / 生活戦術としての同化 / 相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日本において移民の同化についての研究が不足していることをふまえ、地域社会における移民受け入れの論理と移民の同化戦術の相互作用に着目し、日本の地域社会における移民の統合の様相を明らかにすることを目的としてきた。この目的を達成するために、2020年度は主に以下の3点の調査・研究を実施した。 ①移民の同化戦術の分析枠組みの構築:アメリカにおいては、特に1980年代後半以降、同化についての研究が再び盛んに行われるようになった。こうした研究は、移民はホスト社会に次第に同化していくものであることを前提としていた従来の同化研究とは異なり、移民がホスト社会の様々な階層に分かれて同化されることや、移民とホスト社会の相互作用のなかで、移民が社会上昇のために同化を選択することなどを明らかにしてきた。本研究では、日本の地域社会における移民の同化戦術を明らかにするため、主に後者をテーマとした研究を整理し、それをふまえ、移民の持つ資源などの同化可能性だけではなく同化必要性にも着目することで、移民の同化戦術を明らかにする枠組みを示した。 ②熊本県X市における調査:X市における移民受け入れの論理を明らかにするため、移民支援関係者へのインタビュー調査と、国際交流事業の参与観察(オンライン)を実施した。インタビュー調査では、X市における市民による初期の移民支援の一端を明らかにすることができた。国際交流事業の参与観察からは、過去の災害の教訓から、市の移民支援が緊急時に備えた対応により注力している様子が観察された。 ③長野県Y市における移民受け入れの論理の再検討:新型コロナ感染症の影響の長期化により、当該地域におけるフィールドワークは実施できなかった。しかしながら、従来の調査で収集した資料を再検討し、Y市における中国帰国者とそのほかの移民の受け入れの論理の差異に着目し、分析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナ感染症の影響の長期化により、2020年度はフィールドワークの実施が困難となった。このことが本研究の遅れの主な原因である。 ただし、そのような状況下でも、以下の3点においては順調に研究を進めることができた。1点目に、感染が下火になったタイミングでわずかながらもインタビュー調査などを実施することができた。このことは、調査・研究の進展においても大きな意味があったのはもちろんだが、次年度以降、新型コロナ感染症の影響下で調査・研究を継続する方法を模索するうえでも有意義であったと考える。2点目に、先行研究の整理から移民の同化戦術の分析枠組みを構築できた。本研究の1年目にこの枠組みを構築できたことで、今後のフィールドワークの方向性もさらに明確になり、限られた機会でより成果の多い調査を実施できると考える。3点目に、すでに手元にあった資料を再検討したことで、従来の調査で看過していた、Y市における中国帰国者と他の移民の受け入れ論理の違いをより詳細に明らかにすることが可能となった。この作業は当初の予定にはなかったが、フィールドワークを実施できないあいだの代替策として実施した。これにより、フィールドの状況をより的確に理解することができ、今後のフィールドワーク調査や本研究全体にとっても意味のある作業となった。 以上をふまえ、フィールドワーク調査は遅れているものの、そのほかの面では今後の調査・研究においても有意義な進展が見られており、進捗状況は「やや遅れている」に該当すると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度に予定していた長野県Y市と神奈川県Z地域でのフィールドワークの実施に向けて計画をしている。ただし、双方とも筆者の居住地から遠隔であるため、新型コロナ感染症の影響の長期化が見込まれるなかでは、調査実施が困難になることも想定される。その場合には、オンラインでのインタビューも取り入れ、調査を進めたい。また、熊本県X市は筆者の居住地から比較的近い地域であるため、新型コロナ感染症の感染拡大が比較的穏やかな時期を見計らって、調査を行いたい。X市での調査とその結果の検討を今年度の調査・研究の中心的な課題とせざるをえくなる可能性も視野に入れつつ、2021年度中の学会報告、論文投稿を目指す。
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Causes of Carryover |
2020年度は、予算の約半分をフィールドワーク調査や学会参加のための費用として予定していた。しかしながら、新型コロナ感染症の影響が長期化したことで参加を予定していた国際学会を含むすべての学会がオンラインとなったことやフィールドワーク調査が実施できたかったことで、それらのための支出が一切なくなった。また、購入を予定していたパソコンや周辺機器がより廉価で購入できたり、購入を取りやめたりしたため、申請額よりも実際の支出が少なくなった。 次年度は、2020年度に実施が困難となった分も、適宜オンライン・インタビューなども活用することで、フィールドワーク調査を実施したいと考えている。そのため、オンライン・インタビューのための環境整備に費用の支出を計画している。また、本来は2020年度から実施する予定だったフィールドワーク調査を2021年のみで実施することになるので、より調査の効率をあげ進捗の遅れを取り戻すため、従来は自分で行う予定だったインタビュー・データの文字起こしの外注も予定している。
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Research Products
(1 results)