2020 Fiscal Year Research-status Report
Extension of nitrogen-vacancy center spin coherence time by controlling P1 center spin bath in diamond
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20K22480
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
荒井 慧悟 東京工業大学, 工学院, 助教 (10786792)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | 量子センシング / ダイヤモンド / 量子制御 / ノイズ・スぺクトロスコピー |
Outline of Annual Research Achievements |
ダイヤモンド中の窒素・空孔欠陥 (NVセンター)は、高感度・高解像度の磁場センサーや、常温で動作可能な量子ビットとして機能する量子システムである。現在、NVセンターのコヒーレンス時間が、窒素欠陥 (P1センター)由来のノイズにより制限され、どちらの応用も開発が停滞している。本研究は、P1センターのノイズ分布を解明するとともに、コヒーレンス時間を物理限界である縦緩和時間T1(~500us)まで伸長する手法を確立することを目指している。 2020年度は、動的減結合パルスをプローブとして用い、P1センターのノイズ分布を高分解能(< 10kHz)で明らかにするための実験系を構築することを目標とした。計測環境として、NVスピンおよびP1スピンのパルス制御が可能な装置を立ち上げた。NVセンターは2周波のマイクロ波により上下の基底状態の遷移を同時制御することができる。また、この装置ではNVセンターの状態を光で読み出す際に、共焦点顕微鏡を介しての定点測定やCCDカメラによる並列イメージングの両手法から選択することが可能である。P1センターの精密な時間制御を可能とするための、RFパルス制御装置の実装も進めている。実験に用いるダイヤモンド試料は、ダイヤモンド合成の研究室と連携し、高いP1センター濃度を達成するための合成条件について議論を進めている。さらに、P1センターの理論的理解のために、Ornstein-Uhlenbeck過程に従う量子多体系モンテカルロ・シミュレーションの基盤も整えている。 次年度に向けては、本実験で必要となる動的減結合パルス実装を進める。並行して、NVセンターのコヒーレンスを決めているP1ノイズ分布をパルスのフィルタ関数から逆畳み込み積分に算出するプログラムを実装する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①実験装置の構築は順調に進展:2020年度は、動的減結合パルスをプローブとして用い、P1センターのノイズ分布を高分解能(< 10kHz)で明らかにするための実験系を構築することを目標としていた。計測装置としては、NVスピンのパルス制御が可能な装置の立ち上げが完了しており、P1スピンのパルス制御も必要な機材が揃っている。また、NVセンターについて2周波のマイクロ波により上下の基底状態の遷移を同時制御することができる点も計画に追加した。この装置ではNVセンターの状態を光で読み出す際に、共焦点顕微鏡を介しての定点測定やCCDカメラによる並列イメージングの両手法から選択することが可能である。 ②ダイヤモンド試料の準備は順調に進展:今年度は、実験に用いるダイヤモンド試料について産総研・QSTの共同研究者と議論を進める計画であった。この計画に基づき、高いP1センター濃度を達成するための合成条件について議論を進めた。さらに、実際にダイヤモンドの合成を行っていただき、その評価も進めている。 ③数値計算・理論構築は順調に進展:今年度は、P1センターの理論的理解のために、量子多体系の理論構築およびモンテカルロ・シミュレーションを進める計画であった。これに基づき、Ornstein-Uhlenbeck過程に従う量子系のノイズ・スぺクトロスコピー理論や、古典系に従うモンテカルロ・シミュレーションによりP1センターの挙動を理解するための基盤を整えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、コヒーレンス時間をT1限界に漸近させるため、P1センターへの動的減結合が有効に作用する条件を明らかにする。つまり、様々な試料においてコヒーレンス時間が最長となるようパルス数・間隔・形状を最適化する。パルス最適化に必要な6チャンネルの高時間精度・空間均一性のRFパルスシステムは、これまでに研究してきたマイクロコイルで実現・評価する。パルス安定化のため精度0.1Kの温度制御システムも開発・導入する。コヒーレンス時間の2ケタ伸長は、磁場感度や忠実度の1ケタ向上に繋がり、超高感度測定(fT/Hz1/2)や量子誤り訂正が射程に入るだろう。 本実験で測定されるノイズ分布は、Ornstein-Uhlenbeck過程に従う量子多体系モンテカルロ・シミュレーションと比較し、特に高濃度の試料において顕著となる、多体局在化や前期熱平衡化等の物理学への波及効果、ハイゼンベルク限界へ繋がるスクイーズド状態制御についても考察する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じたのは、コロナの影響で納入の大幅な遅れが予想される実験機材の購入を一部見送ったためである。次年度は本年度で購入できなかった機材を購入する予定である。
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