2020 Fiscal Year Research-status Report
Understanding of speech characteristics in autism spectrum disorder
Project/Area Number |
20K22676
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大黒 達也 東京大学, ニューロインテリジェンス国際研究機構, 特任助教 (60886464)
|
Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
|
Keywords | 音声 / 自閉スペクトラム症 / プロソディ / 階層 / 発話 / 言語リズム / 振幅変調 |
Outline of Annual Research Achievements |
・自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder: ASD)の発話の韻律的特徴を明らかにし,それを再現するための音声モデルを作成することを目指しています.これにより,従来のASDのための学習支援とは一線を画す,定型発達者がASD特性を理解するための定型発達者へ向けた学 習支援を実現します.令和2年度は,以下の研究に取り組みました. ・ASDの発話の韻律的特徴の解明を進めました.ASD者の音声は定形発達(typically developed: TD)者のものと比べて,プロソディが弱いことがわかりました.また,音節や音素に関しては大きな違いがみられませんでした. ・言語リズムの階層間の依存性や情報動態を理解するため,移動エントロピー解析(Transfer entropy)を行いました.その結果,ASD者の音声はTDのものと比べて,高階層から低階層へのリズムの流れ(例:プロソディから音節などのトップダウンの情報の流れ)が特に弱いことがわかりました.この結果から,ASDではTDに比べて,言語リズム階層のトップにあるプロソディ,とプロソディから音節への情報の流れが弱いことが示唆されます. ・ASD-TD間の発話”コミュニケーション”の特性を理解するために,対ASDと対TDにおけるTDの発話音声の解析も行いました.その結果,対ASD音声や対TD音声の特性は,ASD音声とTD音声の特性と類似していることがわかりました.TD者は,ASDへ話しかける時と,TDへ話しかける時とで発話リズムが異なる可能性が示唆されます.また,対ASD音声とASD音声の特性が似ていることから,TD者は,ASDへ話す時に,ASD音声に合わせた発話方法をとっている可能性が示唆されます.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
・まず,先行研究の結果と一貫した結果を確認しました.自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder: ASD)者の音声は定形発達(typically developed: TD)者のものと比べて,プロソディが弱いことがわかりました. ・言語リズムの階層間の情報動態を理解するため,移動エントロピー解析を行った結果,ASD者の音声は高階層から低階層へのリズムの流れが特に弱いことがわかりました. ・対ASD音声や対TD音声の特性は,ASD音声とTD音声の特性と類似していました.このことから,TD者は,ASDへ話す時に,ASD音声に合わせた発話方法をとっている可能性があります. ・上記の結果をまとめて,現在学術論文の執筆を進めております.また,自閉スペクトラム症の国際会議「International Society for Autism Research (INSAR)」や,日本発達神経科学会第9回学術集会にて,研究成果を公表しました. ・これらの成果は,当初計画に含まれていないものもあり,発展的な課題といえます.一方,ASD音声シミュレータの開発は未着手で,総じて「おおむね順調」といえます.
|
Strategy for Future Research Activity |
・まず,学術論文の執筆を進めていきます.主要な国際学術誌への投稿と同時に,国際会議での発表も行っていきます. ・ASD発話特性が正確に理解されていない社会環境におかれてしまうことで,社会への適応に苦しんでいるASD者は多く存在しています.多様性社会において真の意味で価値のあるサービスとはなにかを考えた時,ASD者が定型発達者の特性を学ぶだけでなく,定型発達者がASDの 発話特性を理解するような,これまでに類のない当事者視点からの支援が必要だと考えます.そのため,今後は,定型発達者がASDの韻律的特徴を理解し,円滑なコミュニケーシ ョンを実現するための,ASD音声シミュレータを開発します.これにより,従来のASDのため の学習支援とは一線を画す,定型発達者がASD特性を理解するための定型発達者へ向けた学 習支援を実現します. ・ASD発話特性の解明に関しては,当初予定以上に進展しており,引き続き発展的な解析・課題に取り組んで行きます.
|
Causes of Carryover |
コロナ禍により学会が全てオンラインになったことで旅費がかからなかった.来年度は主に,シミュレータ作成にあたって必要となる機器を購入(タブレット類)する.また,国際自閉症学会(INSAR)での参加費・発表経費,学術誌への論文の投稿にあたる英文校正費や,出版費用が主な経費となる.
|
Research Products
(1 results)