Research Abstract |
本研究プロジェクトの目的は,色彩などによって感じる印象・感情,また,質感がどのようなものであるかを数量的に調べ,消費購買活動にどの程度寄与しているのかを知ることにある.今年度は,プロジェクトの最終年度の3年目として,本プロジェクトの研究者が,それぞれの立場から色彩と質感を念頭に広く連携を組みながら,初年度と次年度の研究を引き続き進めた. まず,色彩の印象と質感については,人間の視感覚の本質的な部分の研究を行うとともに,デジタル手法や統計手法を用いることで,色彩,光沢感などの計測評価の可能性を見出し,生活者が受ける印象については,モノや生活空間の色彩から受ける印象の数量的な解析を行い,その特徴を見出した.たとえば,衣服の見た目の風合いは,布の角度によって変化し,変角分光光度計で計測される反射率や明度によって捉えられ,使用者にとってはやわらかさなどの印象と同時に重要な評価因子であることがわかった.また,色光照明による室内空間表面の色の見え方についての実験からは,色の見え方は色光と表面の色の総合的な色順応効果を考慮することで評価可能であることが示唆された. 実際のモノの購買・使用調査では,視感覚の消費購買活動への影響,デザイン嗜好,ストリートファッション,また,障碍者の消費購買活動支援について実験・調査を行い,新たな知見を得た.たとえば,同容量の缶容器でも,底面積が小さく高い容器の方が,その他に比べ,購買活動を促進するelongation bias効果の基礎となる心理学過程を解明するため,1次元(線分)・2次元(円)・3次元(球)画像刺激に対する長さ・面積・体積の判断特性を,実物刺激(棒状ブロック,円盤,球)に対する特性と比較した.その結果,見かけの大きさ判断は,刺激網膜像の大きさに加え,両眼視差・陰影等の影響を受けることが示された.このことは,ヒトの大きさ知覚には,複数の視覚的手がかりが寄与することを示している.また,別途,デザイン属性のうち色と形にフォーカスして調査分析を行い,東アジア圏のみならず欧州まで調査エリアを広げ,東西の文化的背景がもたらすデザイン嗜好の違いを考察した.色嗜好に関して地理的要因,文化要因ともに明確な違いを見出すことはできなかったが,形に関しては興味深い結果が導出された.それは韓国とフィンランドが類似し日本が異なる傾向を示したことであり,デザインへの関与が東西の基軸のみでは分類できないことが示唆された.
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