2012 Fiscal Year Annual Research Report
多言語重層構造をなすインド文学史の先端的分析法と新記述
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21242009
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
水野 善文 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (80200020)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤井 守男 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (90143619)
萩田 博 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (80143618)
太田 信宏 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 准教授 (40345319)
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Project Period (FY) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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Keywords | 文学的教養 / 言語横断的 / 他言語社会 / 口頭伝承 |
Research Abstract |
本研究は、歴史を通して地域的にも社会的にも多言語様相を呈しているインドの多様性に満ちた文化現象の深奥を、文学が言語の差異をこえて伝承・愛好される点に注目し、そのダイナミックな展開を整理し記述することによって明らかにしようとするものである。 今年度は、昨年度までに骨格を固めた5つのトピック(共通の視点としての「ラーマ物語」「12ヶ月諷詠」「映画と文学」「歴史的事象と文学」「語り」)にかんして、参画メンバーの研究遂行を円滑ならしめるため、運営委員会を比較的頻繁に開催しながら進め、5月19日と11月3日に全体研究会を開催した。 研究会では、各トピック(上記5つに加えて、以前より議論のあった「表現方法」も加えて6つとした)の取り纏め担当者(運営委員)が錬った原案に、さらにほかの言語による文学での可能性や異なる展開の仕方などについて討論を加えて、進展を図った。 例えば、インドのみならず広く東南アジア諸国や日本にも伝来した「ラーマ物語」については、等閑視されていた西方への伝承の問題提起を受けて、次の研究会では、担当者がペルシア語等への翻訳の実態をを報告し、メンバー全員が新たな知見を共有することができた。 また、月ごとに季節の風物詩を織り込みながら愛しの人に向けて詠む「12ヶ月諷詠」は、民衆的・牧歌的な起源を有するものであることなど、取り纏め担当者が先行研究を精査し整理して報告した。その一方で、別のメンバーひとりが、古典の、特権階級に限定された高尚な文学の流れとおぼしき「使者(ドゥータ)文学」というジャンルに位置する中世後期の『ハンサ・ドゥータ』というサンスクリット抒情詩作品を読解翻訳し、「12ヶ月諷詠」との連関性を探って、文学の社会階層間の流動性に迫った。 ほかのトピックに関しても、取り纏め担当者を中心に、吟味、整理がなされ、メンバー全員による肉付け作業を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
多くの言語にわたる文学を研究対象とする本研究は、必然、多くの参画メンバーを集める共同研究の形式をとっているが、研究会およびその調整機能として組織した運営委員会において、良く全体をまとめることができており、概ね順調に進んでいるといえる。 議論を重ねるなかから、歴史的、地域的に言語を超えて伝承・愛好される文学・文芸のうち、ダイナミックな展開を具に観察できる文献資料や、本邦外での先行研究が存在することなど、諸条件が整っているものとして、6つのトピックが共通の視点として設定できることが明らかになった。具体的には、「ラーマ物語」(インドの理想の男性像・女性像が描かれ、広くアジア諸国に伝播した)「12ヶ月諷詠」(月ごとに風物詩を織り込みながら詠む恋愛抒情詩のジャンル)「映画と文学」(現代インド最大の娯楽である映画に表象される文学)「歴史的事象と文学」(汎インド的事件が、異なる言語でどのように描かれているか)「語り」(言語の差異をこえて伝えられる民話・説話)「言語表現」(美的表現を重視する古典サンスクリットの修辞法は現代諸語の文学にどう移植されたか)の6つである。これらにつき、それぞれ取り纏め担当者を決め、その者が中心となって、言語横断的な更なる資料・事項の発掘をはじめ、諸文学相互の連関や全体の展開をどのように整理できるか吟味し、参画メンバー全員と調整しながら進めることができている。 ただ当初、BISソフトを有効に活用することを目論んでいたが、テクスト読解などの作業を優先せざるを得ない状況から、使いこなすまでに時間を要する同ソフトをマスターしきれていないこと、だからとて業者に依頼するには経費がかかりすぎることなどの理由から、残念ながら進んでいないが、研究会での討論がそれを補っていると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である今年度中に、各トピックごとの項目を整理し、その項目に関して、担当となった参画メンバーによって研究成果を文章化する。各トピックの取り纏め担当者は、出揃った項目全体の調整を図りながら、連動性・相互影響関係など、諸々に中止しながら、まとめる。ここにまとめられたものが、近い将来、商業出版の形で広く啓蒙する『インド文学史』の土台となるものとしたい。 GISソフトの導入は、新たに設立された国際学会ANGISの研究集会などに参加して、最新の情報を仕入れつつ、将来の可能性を探ることとしたい。
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