Research Abstract |
モンゴル国に現存する世界文化遺産エルデニゾー僧院の保存・保護に向けて,「過去の復元」(考古学・歴史学),「現在の利用」(建築学・文化人類学),「未来への保存」(文化財保存科学・仏教美術史)という3つの観点から,基礎研究と現地における本調査を行った。基礎研究及び現地調査(2011年4月28日~5月8日,9月11日~9月23日,2012年1月3日~1月8日,1月21日~29日,2月16日~2月21日,3月17日~3月21日)の成果は5月14日及び3月10日に大谷大学にて開催された研究集会にて報告され,また,9月17・18日にモンゴル国ハラホリン郷で開催された国際シンポジウムにおいて報告された。 2011年度の現地本調査は,1)ゴルバンゾー内のガンザイ壁画の年代比定2)ゴルバンゾー寺およびの計測と,その起源をめぐる建築史的研究3)エルデニゾー博物館収蔵遺物のデジタル・アーカイブ化の研究,以上の項目について行われた結果,1)についてはC14分析により,19世紀中葉成立との結果を得,2)14世紀に大都(現在の北京)に建立された寺院との類似性を有すること,3)エルデニゾー博物館に所蔵されるチベット語文献は,現地だけでなく,モンゴル各地から将来されたものであること,以上の成果を得た。また,9月17・18日の二日間、日本の無償援助によってハラホリンに建造され、2011年6月に開館したばかりの「カラコルム博物館」会議室で国際学術会議「エルデニゾー-過去・現在・未来-」が、国際交流基金知的交流会議助成を得て開催され,2本の基調講演と15本の報告が行なわれ,最後に,モンゴル国政府に向けて,エルデニゾー寺院の研究と保存保護に関する6項目からなる「提言書」が全会一致で採択された。英文による会議の報告論文集(The International Conference on "Erdene Zuu: Past, Present and Future," September 2011, Ulaanbaatar, 200pp.)が国際会議日程に合わせて刊行され,さらに,そのモンゴル語版が学術雑誌Opxohbi XOHOuuH08(『オルホン渓谷遺産』)の創刊号に収録され,2012年3月に刊行された。また,モンゴル語で出版されている基礎的研究書であるハタンバータル・ナイガル(共著)『エルデニゾー史』の日本語訳を刊行した。一方,エルデニゾーの成立史に関わる18世紀の未発表文書2件については,モンゴル国立中央図書館から出版許可を得ることができず,刊行できなかった。
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