2011 Fiscal Year Annual Research Report
長期的餌資源制限がニホンジカの生活史特性へ及ぼすフィードバック効果の解明
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21248019
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
梶 光一 東京農工大学, 大学院・農学研究院, 教授 (70436674)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高橋 裕史 独立行政法人森林総合研究所, 関西支所・生物多様性グループ, 主任研究員 (60399780)
宮木 雅美 酪農学園大学, 農食環境学群, 教授 (60442604)
鈴木 正嗣 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (90216440)
吉田 剛司 酪農学園大学, 農食環境学群, 准教授 (00458134)
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Keywords | ニホンジカ / 爆発的増加 / 個体群の崩壊 / 生活史特性 / 個体群動態 / 環境収容力 / コホート / 餌資源制限 |
Research Abstract |
1.個体数のモニタリング:自動撮影カメラにより群れ構成と密度推定を実施し、ルートセンサス結果との比較からその有効性が明らかになった。2012年3月の追い出しセンサスで277頭を数え、落葉が2008年以降、高密度個体群(45.4~58.8頭/km2)を維持している。 2.餌の利用可能量と土地利用の年代的変化:草本種と不嗜好植物の変化を草原において調べたところ、イネ科草本は1984年以後に減少し1990年以後は非常に少量となり、ハイイヌガヤは1990年代に消失した一方、フッキソウはなお増加傾向にある。 3.落葉の評価:主な餌が落葉となった第2回目の群れの崩壊後(2008-2012年)の環境収容力は263±28頭(50.6±5.4頭/km^2)であり、初回の増加期の273頭(52.5頭/km^2)に匹敵する。落葉の粗蛋白質は夏季には高く、秋季に低下するが維持要求量は上回っている。 4.生活史特性:2009~2011年に電波発信器を装着した53頭(箱ワナ捕獲3頭を除く)のうち4頭(7.5%)の死亡が確認された。膣挿入型電波発信器によって5頭の出産日が6月20日~7月23日と通常より1カ月遅く、新生子体重は野生よりも軽いことが明らかになった。歯の磨滅速度は1990年代前半の第2増加期前期にもっとも大きく、落葉食ではそれほど大きくないこと、一方で下顎サイズは経時的に減少してきたことが明らかになった。 5.抗体疫学的調査:前年度に引き続き感染症を調べるために、紅班熱群リケッチの検出をこころみたが全てが陰性であったため、リケッチアを用いることの不適切性が確認された。 6.爆発的増加と崩壊の個体群動態モデルの構築:年齢と死亡日が既知標本から最低生息数の復元したところ、2回の爆発的増加と崩壊を再現で、追い出しセンスと同様な結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第2回目の崩壊期以降に個体数の回復と安定を確認できたことにより、落葉が支えることゐできる環境収容力を推定することができた。ほぼ30年間にわたる頭骨標本、冬期センサス、植生調査によって、個体数変動のプロセスが明らかにされ、変動要因解析の基盤が整備できた。自動撮影カメラを用いた個体数推定方法が確立した。生体捕獲と追跡によって生存率や新生子の出産日、初期体重までが明らかになったため、生活史の解明が進んだ。
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Strategy for Future Research Activity |
本年は最終年度にあたるため、長期に継続した採食圧によって変化した生息地による餌資源とニホンジカの生活史特性との相互関係を時系列的に調べることによって、慢性的な餌不足状態に陥っているにもかかわらす、シカが高密度で維持されているメカニズムについて、総合解析を行う。研究を遂行する上での問題点として、落葉の採食を定量的に評価するデータが採取されていないので、イリジウムならびにGPS首輪を装着した個体の行動圏の環境を詳細に調べることにより、利用可能な餌資源としての落葉の評価を行いたい。
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