Research Abstract |
近年,豊かな生物多様性を誇るサンゴ礁海域においてサンゴの白化現象が頻発し,サンゴ礁生態系の衰退が危惧されている。サンゴは共生する褐虫藻を放出などの様々なプロセスにより失うことで白化し,白化状態が続くと死に至る。本年度の研究では特に, 1,様々なサンゴから放出される褐虫藻及びサンゴ内に残存する褐虫藻の遺伝子型別定量 2,シンク・ソースとしての環境中の褐虫藻の存在意義 に関して,沖縄県石垣島浦底湾において調査を行った。 1に関しては,湾内に生息する複数のサンゴ群体に対して6月及び8月に褐虫藻トラップを装着し,そこに放出される褐虫藻の遺伝子型及びその細胞数を定量PCRにより見積もった。その結果,いくつかのサンゴにおいては,水温の局い8月の方が6月に比べて多くの褐虫藻を放出していた。また,サンゴ内に残存する褐虫藻量を比較すると,調査した全てのサンゴで8月の褐虫藻量は6月のそれに比べて約30%の減少が見られた。これは,6月と8月の調査の間に大規模な褐虫藻放出があったことを示唆するものである。また,放出された褐虫藻は透過型電子顕微鏡観察の結果,目立った損傷は見られず,健康に見えた。 2に関しては,湾内に4つの定点を設置し毎月1回の採水を行い,そこに出現する褐虫藻の細胞密度を遺伝子型別に定量した。その結果,水柱にはサンゴ内と同じ遺伝子型の褐虫藻が低密度(100~200cells/L)ながら出現していたが,8月29日の採水時には約4000cells/Lの高密度な出現が認められた。定点に設置していたメモリー式水温計のデータを見ると,局密度な出現が認められた8月29日の水温は29.6℃であり,さらにその直前1週間は約30℃付近の水温で推移としいた。これは上記1の結果と照らし合わせると,高水温によりサンゴから大量に放出された褐虫藻が水柱にシンクとして蓄積していると考えられる。
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